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英国の「公共のための放送」の考え方とは

BBCが先駆者となって90数年、メディアの立ち位置は市民の側に

小林恭子 在英ジャーナリスト

英国の「公共サービス放送」とは

拡大政府が所有し、運営費は広告収入となるチャンネル4のニュース・サイト(ウェブサイトより)

 改めて「公共放送」の定義を見ると、例えば「百科事典マイペディア」によれば、「放送事業体が営利を目的とせず、聴視者からの聴視料などをおもな財源として、公共の福祉と発展を事業目的として行う放送を商業放送と対比していう」とあり、具体例としてNHKやBBCが挙げられている。

 日本で「公共放送」というとNHKになるため、財源に着目し、「公共のお金で運営される放送」という理解になるだろうと思う。

 しかし、英国で「公共サービス放送(Public Service Broadcasting =PSB)」というと、その財源が公的な資金である必要は必ずしもない。

 先に挙げた主要放送局であるBBC、ITV、チャンネル4、チャンネル5のすべてがこのカテゴリーに入る。

 ITVとチャンネル5は、主として広告収入によって運営されている。ITVは民間企業ITVが所有し、チャンネル5は同じく民間企業のバイアコムが所有している。いわゆる、「民放」である。民間企業は、事業(放送業)を行うとともに最大限の利益を上げることが目的となる。

 チャンネル4は政府が所有しているが、その運営費は主として広告収入だ。公なのか民なのか、区分けがしにくい放送局である。

 こんな風になってしまったのは、最初にできた放送局がいわゆる「公共放送」(財源にもその目的にも「公」という要素が入る)のBBCであったことによる。

 BBCの後にできた放送局は、財源がどうなっているかに関係なく、「BBCスタンダード」(公のために放送する)を順守する形で開局している。

 英国で放送免許を与えるのは第三者機関「オフコム」だが、PSBの免許を与える条件として放送局はその番組内容に多様性があること、オリジナルの番組が一定数放送されること、リピート番組の放送回数を一定数に抑えることなどが義務化され、ニュース番組には不偏不党が求められる。

 衛星放送スカイテレビのスカイニュースはPSBではないが、ほかのテレビ局同様にニュース報道では不偏不党を維持する方針をとっている。

 例えば米国で保守系勢力に人気があるフォックス・ニュースを放送する局は、英国のPSBの枠の中には入ることができないだろう。

不偏不党は「中立」ではない

 不偏不党は「中立(neutral)」とも言えるのかもしれないが、よく使われるのが「impartial」という言葉だ。対立する2つの意見があれば、その両方を入れる、ということである。どちらかに偏ることはない、と。

 「中立(neutral)」という言葉には、「どちらの側にもコミットしない」というニュアンスを筆者は感じるのだが、どうだろうか。

 英国のメディアは、どんなニュースのトピックにせよ、「真ん中の位置にいて、どちらの側にもコミットしない(関与しない)」という立場を、取らない。

 どこに立ち位置を置くかというと、市民の側である。時の政府、大組織、富裕層などは「権力者」であり、メディアは市民のために、その権力者の嘘を暴くために存在している。

 なぜそうなったのかを理解するには、BBCの誕生以前、もっと時代をさかのぼる必要がある。

 英国に印刷業が伝わったのは15世紀末だ。権力者(王室)は危険な思想を広める可能性を秘めた印刷業を免許制度にした。免許を持った印刷業者のみが出版物を発行することができ、事前検閲もあった。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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