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トルコ原発輸出断念 今井尚哉の敗北

東芝は失敗、三菱は撤退。残るは日立のみ。もはや新規原発の建設は難しい

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

「原発輸出の旗を降ろすな」

 一方の日本は経済成長に伸び悩み、とりわけ民主党政権は経済成長に無為無策だった。そこで飛びついたのが、経産省が売り込んできた原発を始めとするパッケージ型インフラ輸出。自動車や電気製品のように機器の売り切りではなく、機器(ハード)を売った後もメンテナンスやサービス(ソフト)で継続的に売り上げを立てようという考えだ。コピー機メーカーがインクトナーで利益を上げていくのを、より大がかりに展開しようというアイデアと言えよう。

 いま日立製作所の社外取締役に転じている望月晴文事務次官や、安倍首相の秘書官を務める今井尚哉審議官らがその振り付け役だった。

 ところが、「受注確実」と噂されてきたアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ原発の計画で、日立製作所を中核メーカーとした日本勢は、後発の韓国勢に価格面で引き離されて手痛い敗退を喫した。この「UAEショック」の雪辱を果たそうと、新たな売り込み先に上がったのがベトナムやトルコだった。

 トルコが建国100年の2023年に運転開始を目指していたシノップ原発計画では、経産省と親密な東芝が東京電力と連合体を組んで受注するつもりでいて、「我々よりも彼らの方がはるかに先行していた」(三菱重工の原発部門のトップだった大仲輝昌元執行役員)。このころ東芝・東電連合は、韓国の安値受注に脅威を感じていたせいか、比較的安価な金額で原発を建設できるようなことをトルコ側に甘くささやいた模様だ。

拡大爆発後の福島第一原発3号機の原子炉建屋=2011年3月15日、東京電力提供

 そこに東電原発事故が襲った。東電は事故収束と賠償に追われ、海外進出どころではなくなった。後押ししてきた経産省はそこであきらめればいいのに、当時資源エネルギー庁の次長になっていた今井氏が「原発輸出の旗を降ろすな」と三菱など各メーカーにアプローチしてきた。

 「各メーカーを呼んで『何か知恵を出してくれ』と今井さんは言っていましたね」と大仲氏。とりわけ各社に「ハッパをかけてきた」のが、今井氏の下にいた香山弘文原子力国際協力推進室長だった。「もっと強い姿勢で臨んでほしいとずいぶん言われましたよ」。そう大仲氏は当時を振り返る。

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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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