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移民労働力は日本にとってプラスかマイナスか?

恩恵を受けるのは資本家であって、労働者は被害を受ける

吉松崇 経済金融アナリスト

「改正入国管理法」は国の形を変えるのか

衆院で出入国管理法改正案の審議を見守る人たち。技能実習生の姿も=2018年11月
 単純労働分野での外国人労働者の受け入れを認める「改正入国管理法」が、12月8日、参議院本会議で可決・成立した。「深刻な人手不足に対応するため」というのがうたい文句であり、極めて短時間でこの法律を成立させたが、実は「国の形を大きく変える」可能性がある極めて重要な法律である。日本がこれまで原則として認めて来なかった「移民労働力」に大きく門戸を開放する可能性があるからだ。これほどの大問題をこんなに簡単に決めて良いものかとの疑問が残る。

 日本はこれまで、外国人の在留資格を高度な専門的・技術的能力を有する人、いわゆる「高度プロフェッショナル(高プロ)」に限るという建前でやって来た。例えば、企業の経営管理職やエンジニア、また大学教授や弁護士・会計士・医師のような専門職の人たちである。

 しかし、現在、130万人の外国人が日本で働いているが、このうち、「高プロ」は24万人に過ぎない。日系人や日本人配偶者を持ち永住権を得ている「身分に基づく在留資格」を有する人が50万人、過酷な労働条件や低賃金で国会でもさんざん問題になった「技能実習生」が26万人、外国人留学生のアルバイトが26万人である。現実には多くの外国人が単純労働で働いているのだ。

 法務省は、今回の改正で導入される「特定技能1号」資格での受け入れ見積数を、向こう5年間で34万人としているが、実はこのうちの6割は「技能実習生」からの振り替わりを想定しているようだ。この法律は、評判の悪い「技能実習生」制度への対策でもあるらしい。

 安倍首相は「原則として5年の期限があり、家族の帯同を認めない。永住資格には高いハードルがあるので、これは移民政策ではない」と強調している。確かに、「特定技能1号」では、在留期間は最長5年で家族の帯同を認めていない。在留期間の延長が可能で、家族の帯同が認められ、将来の永住に道を開いている「特定技能2号」という資格を得るには、高度な試験に合格する必要があることになっている。

 だがこれは、あくまでも労働力を受け入れる側の論理である。労働の供給側、つまり外国人労働者にとって、この条件が魅力的か否かは別問題だ。これでは人が集まらないという話になれば、将来、在留条件が緩和されることもあり得るのではないだろうか?

移民の経済学

 日本の社会は厳しい少子高齢化に見舞われている。この事実から、外国人労働力を大量に導入することが不可避であると考える人も多い。

 外国人労働力を「輸入」することは、経済学的にはどのように考えられるのだろうか? 移民大国のアメリカの経済学者は、長い間、この問題に意識的に取り組んでおり、研究の蓄積も多い。

 移民研究の第一人者と言われるハーバード大学の労働経済学者、ジョージ・ボージャス教授が面白い思考実験をしている。

 そもそも、移民が文化の壁・言語の壁を乗り越えても移住を決断するのは、自国に居るよりもはるかに高い収入、より高い生活水準を享受できるからだ。何といっても、収入の格差が大きいだろう。先進国と発展途上国の賃金の格差は、ほとんど労働生産性の格差で説明できる。

 今、仮に地球上に国境がなく、文化や言語の壁もないとしよう。究極のグローバリゼーションである。そうすると、発展途上国から先進国に向けて大量の移民が発生する。この移民の流れは、賃金格差・労働生産性の格差が消滅するまで続く。

 その結果、
① 発展途上国の59億人の人口のうち、56億人が先進国に移住する(労働人口では、27億人のうちの26億人)。この移動の前の先進国の人口は11億人で、労働人口は6億人である。
② 世界のGDPは70兆ドルから110兆ドルに増大する。
③ 先進国の賃金は40%下落する。
④ 発展途上国の賃金は2.5倍に上昇する。
⑤ 資本の収益率が60%増大する。
以上は2013年の世界経済データからの推計である。
(ジョージ・ボージャス『移民の政治経済学』白水社、2017年、33~34頁)

 もちろん、こんなことが実際に起きる訳ではないが、ここには移民労働力についての重要な含意が示されている。

 まず第一に、

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