GDP2位から転落、自信を失った日本。マイノリティを受け止める若者たちが希望だ
2018年12月23日
1989年(平成元年)1月7日早朝、先の昭和天皇が崩御。その日、皇居では28万人が列をなして記帳したが、同じ日、全国の証券会社の窓口には、政府が放出する沖縄電力株を求める人々が並び始め、9日の売り出し時には5万人を超えた。
自粛ムードと旺盛な経済の営みが併存する風景の中、平成が始まった。
平成元年はどんな年だったのか。
1月に決まった政府の経済見通しは「内需主導で4%成長」と高らかにうたい、政府予算の一般会計は60兆4000億円で前年比6.6%増加した。税収が増加し、凍結されていた整備新幹線は15年ぶりに着工が決まった。
日本はバブル景気の真っ盛りだった。不動産価格は高騰し、日経平均株価は史上最高を連日のように更新(上のグラフ)。深夜、街角でタクシーを止めるのに1万円札を振る時代だった。
三菱地所は、米国人の反感などお構いなしにニューヨークど真ん中のロックフェラーセンターを購入。ゼネコンや商社、サラ金業者は欧州の古城やワイン農場、印象派の名画などを買い漁った。
証券会社は、東京湾岸に土地を持つ企業を「ウォーターフロント銘柄」と名付け、「もっと上がる潜在力がある」と投資家を煽った。多くの国民がおこぼれに預かろうと株やゴルフ会員権を買い、日経平均は89年末にピークの3万8915円を付けた。
未曽有の欲望が渦巻いていたこの時期、社会の裏側でひっそりと、ある異常な集団が若者を引き付けていた。後に坂本弁護士一家殺人事件(1989年)、松本サリン事件(1994年)、地下鉄サリン事件(1995年)などを起こすオウム真理教である。
仏教など諸宗教の教義を取り入れ、修行によって空中浮揚など神秘的な超能力を獲得できると宣伝。東大や京大をはじめ、各地の大学にサークルを作って信者を勧誘していた。
現在50代前半の会社員は「私も大学時代、友人に誘われてオウムの道場で『修行』した。超能力には興味があったが、それより株だマネーだと浮かれる世の中はおかしい、絶対に間違っていると感じていた。そんな学生たちが来ていた」と振り返る。
その後の事件で逮捕されたオウム信者の中には、大卒や大学院卒の学歴を持つ者が数多くいた。
「私は途中で離れたが、顔見知りの学生は逮捕された。社会の在り方とか精神性とか、真面目に考える学生ほど取り込まれて人生を棒に振ったと思うと、今もやり切れない」
オウムは地下鉄サリン事件の2か月後、1995年5月に麻原彰晃教祖が逮捕されて壊滅。平成バブルも、行き過ぎを懸念した大蔵省(当時)が銀行の不動産融資を規制強化し、一気に崩壊に向かった。
1990年代後半に入ると、融資が焦げ付いた金融機関や、顧客の損失を帳簿外で補てんしていた証券会社が破たん。世界最強と言われた製造業も3つの過剰(人員、債務、設備)を抱え、成長の道筋が見えない「失われた20年」に入っていった。
一方、海外では、日本の製造業に押されていた米国が、インターネット産業を育成して急回復。中国も改革開放によって文革後の停滞から脱し、2010年にはGDPが日本を抜いて世界2位に浮上した。
それまで米国に次ぐGDP2位という誇り高い地位から転落した現実が、国民にはなかなか納得できない。韓国企業ものし上がってきた。自信喪失に悔しさが混ざり合い、この頃から反中国、反韓国の書籍や、ネット上の排外的傾向が目立つようになる。
国の財政も30年の間に悪化した。社会保障の財源となるはずの消費税引き上げは安倍政権下で2回延期され、一方で米国製の防衛品購入など身の丈を超える歳出が続いている。
毎年の国の予算は、政府発行の国債を日銀が大量購入することで何とか成り立っている。米国とEUはすでにこの種の金融緩和から撤退(出口)を始めた。残るは日本だけである。
もし日銀が出口に向かえば、国債の引き受け手がいなくなって金利が上昇し、経済に打撃を与える。日銀が買い支えている株式市場も下落する。かといって続行すれば、政府の債務(1300兆円)も、日銀が保有する国債残高(450兆円)も膨らみ続ける。
この、進むも引くも困難な状況が、平成の次の時代の子どもたちにそのまま押し付けられる。財政は国の土台である。後世、平成は無責任な時代だったと必ず言われるだろう。
しかし筆者は同時に、社会がこれから根底の部分で大きく変わるという明るい予兆も感じている。
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