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ふるさと納税で大きい、ポータルサイトの存在

自治体のポータル利用実態に関する全国調査が必要だ

平田英明 法政大学経営学部教授

 年末が近づくにつれ、有名芸能人の出演するふるさと納税のCMが、大量に流れているのに気付かれている方も多いだろう。ふるさと納税は、納税者が選択した自治体に寄付すると、そのほぼ全額が税控除される仕組みである。年末までの寄付は2018年分扱いとなるため、最後の一押しを目的に集中放映をしているのだろう。

 ふるさと納税の目的は、ふるさとを思う気持ちや地域貢献の気持ちを納税という形で表すことである。たしかに、データを分析してみると、財政の厳しい自治体や人口流出の続く自治体では、ふるさと納税が集まりやすい傾向があり、本来の目的は一応達成できている。

ふるさと納税の「うまみ」は返礼品に

ふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス」に掲載された山口県和木町の返礼品。高級アイスも並ぶ
 しかし、納税者にとってのふるさと納税の「うまみ」は返礼品にある。ふるさと納税をせず、地元自治体に納税(住民税納税)をした場合、納税の対価は地元自治体の行政サービスとして還元される。このため、対価がダイレクトには実感されにくい。逆に、ふるさと納税が納税者の興味を引くのは、見返り(返礼品)からのダイレクトな恩恵ゆえだ。実際、返礼率(=返礼品の価値÷ふるさと納税額)が高まるほど、各自治体に集まったふるさと納税額の増える傾向が統計的に確認できる。

 では、ふるさと納税受入額は、各自治体を思う納税者の気持ちと返礼率だけで決まるのだろうか。私の研究室の学生たちが、全国1,700余りの市区町村データを用いて統計分析をしたところ、第三の要因が浮かび上がった(注1)。それは、ふるさと納税を広く募るためのポータルサイトの存在である。実は、ふるさと納税CMの大半は各自治体ではなく、民間業者が行っている。ふるさと納税CMとは、営利目的の民間業者が運営するポータルサイトの宣伝に他ならない。

(注1)本稿の内容はこの研究にその多くを依拠している。詳しくは 鈴木麻世・我妻沢麻・八木湧大・後藤菜月「ふるさと納税の決定要因」2018年10月参照。

納税額の10%程度がポータルへの手数料に

 ポータルサイト(以下、ポータル)は、ふるさと納税の申し込みの仲介手数料等(以下、手数料)を各自治体から得る。手数料について、ポータルはほとんど情報開示を行っておらず、ブラックボックスの状態だ。しかし、愛知・岐阜・三重の3県における地方自治体に関する調査で、ふるさと納税額の10%程度がポータルへの手数料に用いられていることが、先日明らかになった(注2)。仮に、同等の手数料が全国の自治体にも適用されているならば、総額370億円程度の税金が自治体からポータルへ支払われている計算となる。なお、今夏に実施した私の研究室の学生調査でも5~12%という似たような水準の手数料が報告されている。

(注2)東海テレビ「ふるさと納税 市町村が受けた寄附の“10%超”がサイトへの手数料等に 東海3県独自調査で判明」2018年12月6日

 各ポータルのサービス内容は区々だ。最も典型的なのが、全国の自治体名とその概要をあまねく掲載し、手数料を払っている自治体に関してのみ、ふるさと納税をポータル内で行えるタイプだ。例えば、ある大手ポータルの場合、自治体名が濃字と薄字で紹介され、濃字についてはポータル内納税ができる(全自治体の8割程度)。ポータル内で納税できるということは、決済情報を一度入力すれば、同ポータル内で濃字掲載されている自治体への納税も簡単に行うことができ、納税者にとっては便利だ。一方、薄字については、簡単な自治体紹介があるだけで、納税はできない。一見、紹介しているようだが、実際には薄字の自治体は納税しにくい印象を与えている側面もある。

 また、この典型例とほぼ同じだが、太字の一部自治体については外部ポータル(他ポータルや自治体の用意する納税サイト)へ誘導するタイプも存在する。この他、限られた数の自治体のみを掲載する一方、高級商品に絞った品揃えでポータル内納税ができるようにする特化型タイプもある。つまり、ポータルごとの特徴は、納税が直接できるか否か、品揃え(自治体揃え)が包括的か部分的かで区別される。

参入業者が多いふるさと納税ポータル

 このようなポータルは、経済学的には「プラットフォーム」と呼ばれる。競争を通じて、限られた数のプラットフォームが生き残っていくのが一般的だ。しかし、ふるさと納税ポータルについては少なくとも20近いポータルが乱立している。参入業者数が多いという事実は、現時点においては、利益率が高く、プラットフォーム同士の棲み分けや差別化ができていることを示唆している。また、「強力なコンテンツ」の存在は、プラットフォームの優位性に繋がることが知られる。ふるさと納税の場合、各ポータル限定の返礼品や納税額毎のきめ細かな返礼品のラインナップが「強力なコンテンツ」となり得る。

 ところで、ポータルが、われわれの生活の中で様々な形で当たり前の存在になってきていることにお気づきだろうか。美容院やレストランの情報をまとめたポータルが好例だ。この場合の「強力なコンテンツ」とは、ポータル独自のクーポンだ。ポータルは、美容院やレストランから手数料を徴収する。筆者の懇意にしている美容院関係者によると、競争の厳しい吉祥寺エリアの場合、美容院1店舗がポータルに支払う手数料は、ある定額方式のポータルの場合、1年間途中解約不可の契約で一店舗あたり月50万円(年600万円)程度という(ある従量制のポータルの場合は、ポータル経由の売り上げの20%)。結局、われわれ消費者が手数料負担をしているかと思うと、複雑な気持ちになるのではないだろうか。

 この話をふるさと納税に当てはめて考えてみよう。せっかくの納税の一部がポータルを運営する営利業者に回るということが、納税者として腑に落ちないという話になる。ただし、ポータルは無料であるべきだとか、ポータルは悪しき存在であると考えるのも早計だ。ポータルの存在は、納税者にとって、1,700以上ある自治体からの選択を容易にするばかりでなく、ランキング、特集、レビューといった情報を納税者が活用できるようにしてくれる。自治体にとっても、自治体そのものや特産品への認知度向上(とその結果としての地域活性化)が期待される。

 それでは、

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