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世界でいちばん持続可能な水田農業を潰す日本農政

土壌流出も地下水枯渇も塩害も連作障害もない。水田こそSDGsに最適な農業だ

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 

拡大巣立ちをし、水田に降り立ったコウノトリ=2018年6月18日、島根県雲南市教委提供

 国連が”持続可能な開発目標”(SDGs)を掲げてから、日本政府も安倍首相を長とする推進本部を設置し、先進的な取り組みを進める自治体や企業を表彰する「ジャパンSDGsアワード」の表彰式を開くなど、推進に努めている。

 これに積極的に取り組んでいると標榜する企業も少なくない。SDGsは熱を帯び、一種の流行になったかのようである。

 ところで、国連の17の目標のうち2番目は、「飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する」としている。

 果たして、日本は食料の安定確保や持続可能な農業の推進に努めてきたのだろうか?

「東亜4千年の農民」~キング教授の水田農業への驚き

 人にとって第一に重要な食料・農産物は、生命維持に必要なカロリーの供給源である穀物である。世界の穀物生産は、米作である水田農業と小麦やトウモロコシなどを生産する畑作農業に分かれる。水田農業は主に日本などアジアモンスーン地域で、畑作農業は主に欧米で行われている。

 モンスーン・アジアでは、米作が行われる夏期に降雨量が集中する。ヨーロッパでは夏の降水量は米作を行うには足りないが、年間平均して雨が降るので、雨水を利用した畑(小麦)作が中心となった。

 しかし、一粒からの生産力という点では米は小麦をはるかにしのぐ。アジアモンスーン地域が世界の14%の面積にもかかわらず、世界人口の6割を養っているのは米の力だ。

 水田農業は極めて持続的な農業である。1909年日本、朝鮮、中国を訪問した米国ウィスコンシン大学のフランクリン・キング教授は、わずか数十年の間に激しい土壌浸食を生じてしまったアメリカ農業に比べ、数千年の間持続的な農業を行い多数の人々を養ってきた水田農業に驚嘆し、「東亜4千年の農民」という書を著した。今でも、同大学にはキング教授の教えを受け継ぐ「F・H・King持続的農業クラブ」が精力的に活動している。

 畑作農業では、同じ農地に毎年同じ作物を栽培すると収量が落ちるという連作障害という現象(園芸をしている人は“いや地”という言葉で知っているはずである)があるので、トウモロコシの後には大豆を作付けるなどの輪作が行われてきた。

 これに対して水田農業には連作障害はない。毎年同じ米を作付けしても収量は落ちない。輪作など不要である。

 残念ながら欧米の人は水田農業についてほとんど知らない。先日あるセミナーに参加した際、カナダの農家が日本で米を作るのはモノカルチャーで問題であり、環境のためにも輪作して多数の農産物を作るべきだという趣旨のことを主張していたのには唖然とした。無知に傲慢さが加わったような主張であり、馬鹿馬鹿しくて反論する気にもならなかった。


筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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