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世界でいちばん持続可能な水田農業を潰す日本農政

土壌流出も地下水枯渇も塩害も連作障害もない。水田こそSDGsに最適な農業だ

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

畑作農業の非持続性

拡大干上がり露出したアラル海の湖底を塩が覆う。左上がアケスペ村=2018年4月、カザフスタン
 アメリカやオーストラリアなど、世界の畑作地域においては、“土壌流出”、“地下水枯渇”、“塩害”(塩類集積)などによって生産の持続が懸念されている。

 農地に外部から人工的に水を供給することを「かんがい」という。かんがい地域の一部においては、過剰な取水や揚水に伴う、河川の断流や地下水位低下等の水資源の枯渇、乾燥地域における不適切なかんがいによる塩害の発生等が、指摘されている。

 かんがい等のための過剰な取水により、アメリカ大平原の地下水資源であるオガララ帯水層の5分の1が消滅しており、中国では黄河等が断流している。

 排水が十分にできないと、土の中に貯まったかんがい水に土壌中の塩分が溶ける。さらにかんがいを行なうと、地表から土の中に浸透する水と、塩分を貯めた土の中の水が、毛細管現象でつながってしまい、塩分が地表に持ち上げられ、土壌表面に集まる。乾燥地では強い日差しの下で蒸発散量が大きいため、塩分は表土に堆積してしまい、雪が降ったのではないかと錯覚するような光景が広がる。

 これで古くはメソポタミア文明が滅んだ。現代でも、かつては世界第4位の面積があった中央アジアのアラル海周辺では、旧ソ連時代のかんがい農業プロジェクトにより湖に流入する水量が減少した上、農地の上に堆積した塩を農家が洗い流すことによって塩分を含む水が流入したため、面積は10分の1に縮小しかつ塩分が多く魚の住めない死の海となった。これは20世紀最大の環境破壊と言われる。

 植物が生育するために、土壌には植物が水を吸収できるような保水性と呼吸できるような通気性という相矛盾した機能が要求される。これは土壌の団粒構造と呼ばれるもので、それを作るためには有機物と土壌微生物等が必要である。このような構造や肥沃度を持つ土壌は土壌表面から30㎝程度の深さの「表土」と呼ばれるものに限られており、このような構造を持たない土壌では多くの植物は生育できない。

 しかし、表土の生成速度は1㎝について200~300年と推定されており、30㎝の表土は6000~9000年という長い期間をかけて形成されたものだ。これが失われることは、農業生産力をほとんど放棄することに他ならない。

 アメリカでは、大型機械の活用により、表土が深く耕されるとともに、汎用性がなく特定の作物に特化した機械が利用されるようになったため、作物の単作化が進み、収穫後の農地が裸地として放置されるので、風や水に土がさらされやすくなり、土壌侵食が進行する。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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