外国人を「労働力」としか見ないのは間違い。彼らなしに日本はもはや成り立ちません
2019年01月05日
3回シリーズ「アメラジアンスクール@沖縄」「5宗教共存の幼稚園@つくば」「定住したインドシナ難民たち」で、日本が多様性を認め合う社会へ成熟するための課題をそれぞれの現場から考えてきました。
2018年には、出入国管理法が改正されました。事実上の「移民」を認める政策に転換するのか、国民を巻き込んで大きく議論されました。
日本は欧米のように陸路で入国できず、玄関口は国際空港にほぼ絞られます。そのため、在留許可に高いハードルを設ければ、日本国内で暮らす外国人数をコントロールすることは難しくありませんでした。
けれども、今やその状況は大きく変わっています。
コンビニでは外国人留学生らが働き、観光地では外国人観光客が押し寄せお金を落としていきます。農業、建設といった現場でも欠かせない存在となりつつあります。人手不足の介護の現場では新たな在留資格による外国人労働者の受け入れに対する期待感があります。
日本社会が外国人の労働力を欠かせなくなった大きな原因は、少子高齢化に伴う人口減少社会が世界でも未曽有のスピードで突き進んでいるからだと思います。国内では、日本人の労働者が減少し、市場が縮小したり、消費者の購買力が落ちたり、生産性が落ちたりしていく社会が待ち構えています。負のスパイラルです。介護や農業、建設など一部の分野は、賃金を上げれば日本人労働者が集まるという単純な構図ではなくなってきています。
一方、社会保障など公的な支出は増えていきます。65歳以上人口が急増し、「長寿リスク」が語られる今、多くの人たちが家計の支出を抑えたいと考えるのは自然な流れです。
日本は「総中流社会」と言われるほど、分厚い中間層が消費を牽引してきました。その層が、長く続くデフレと負担増社会で、雲散してしまった感があります。
それでもなおこれまでの生活の維持や成長を維持するためには牽引車が必要です。「これまでの生活の維持」をするためにコンビニで働く人をどう確保するのか、「成長を維持」するために生産現場で働く人をどう確保するのか、といった具体的な問題に直面します。
その答えが、外国人でした。低廉な労働力という目的だけではないのです。
政府はここ数年、技能実習生といった労働分野だけでなく、留学生、観光客と、様々なかたちで日本への「入り口」を広げています。
少子化で経営難の大学を救うために留学生をどう増やせばいいのか、地方の地域活性化のために外国人観光客をどう増やせばいいのか、といったように、日本を支える消費者としての外国人の姿が色濃く見えるようになってきました。
医療機関での医療費の未払い、失踪、ゴミ出しといった生活上の問題など、負の側面が強調されがちですが、だからといって、かつてのような外国人の在留に厳しい国に戻ることは不可能に近いと思います。
IT分野でも人材不足は深刻です。朝日新聞デジタルによると、フリーマーケットアプリ大手のメルカリは2018年10月1日、インド工科大学の学生などインドから32人を新卒社員として迎えたそうです。台湾や米国、中国などからも12人が入社。社内には住居や語学、ビザなどを手助けする専用チームを設けてサポートしているといいます。
スキルがある人材を求め、新卒市場や転職市場でも、外国人労働者の獲得が話題になる時代になりました。あらゆる層、あらゆる場面で、外国人との接点や競争する社会を迎えている時代なのです。
263万7251人。
この数字は、日本の法務省入国管理局がまとめた2018年6月末現在の「在留外国人数」です。この数字は、「特別永住者」と「中長期在留者」の合計の数です。特別永住者は32万6190人、中長期在留者は231万1061人。
特別永住者は、第2次世界大戦後、サンフランシスコ平和条約で朝鮮半島や台湾が日本の領土でなくなったことに伴い日本国籍を離脱した在日韓国人・朝鮮人・台湾人とその子孫に対して、日本への定住などを考慮したうえで永住を許可した人たちです。
一方、永住者は「中長期在留者」に含まれています。その在留資格を得るには、原則10年以上継続して日本に在留していて、3つの要件を満たす外国人が対象になります。
①素行が良好であること
②独立の生計を営むに足りる資産または技能を有すること
③その者の永住が日本国の利益に合すると認められること
日本人と結婚している場合は在留期間が3年以上でいいほか、日本人や永住者または特別永住者の配偶者や子どもなら①と②は必須条件でなくなるといった特例もあります。
「中長期在留者」の分類には、留学32万4245人、技能実習28万5776人、技術・人文知識・国際業務21万2403人といった勉強や仕事のために限定的な在留資格で来日した人から、定住者18万5907人、家族滞在17万4130人、日本人の配偶者等14万2439人、永住者の配偶者等3万6562人という在留資格の人たちまで含まれます。
今回のシリーズ「多様性を認め合う」の3回目「定住したインドシナ難民たち」の記事で、技能実習生として来日した人たちがSNSを通じて日本人配偶者や永住権を持っている同郷の人を必死に探すという話がありました。
これは、この「中長期在留者」に含まれている日本人や永住者の配偶者ビザを得るためです。在留中の自由度が増すからです。
この「中長期滞在者」のグループに、2019年4月に施行される改正入管法によって新設された在留資格「特定技能1号」と「特定技能2号」が含まれることになります。政府の推計によると、5年間の受け入れ見込み数は「特定1号」だけで最大約34万5000人になるといいます。
これらの数字を見ているだけでも、「一時的に滞在している人たち」という見方は間違っていることがわかります。また、上記の様々な在留資格で日本に滞在する外国人の数を考えると、日本人が考えている以上に、事実上の「移民社会」に一歩も二歩も踏み出していることがわかります。
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