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神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら

気鋭のプロたちの著作権改革案、開幕の辞

福井健策 弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授

 法律家としてミュージシャン達をサポートする水口瑛介は、参加者中もっともシンプルに「DJプレイを許す規定の導入」で勝負しました。リアルタイムのDJプレイはともかく、その配信や音源化はかなりはっきり編曲権や(前述の)著作者人格権に抵触しそうです。しかしJASRAC等は実はこうした権利は管理しておらず、「著作隣接権」の問題もあって現状はグレイで行うかあきらめるか。これを特別規定で認めるべき、という一点突破の提案です。

 AIと著作権で名をはせる柿沼太一は神戸から急きょの参加。全く違う切り口から「著作権版サンドボックス制度の導入」を提案しました。サンドボックス制度(生産性向上特別措置法)とはあらたな技術が登場した場合に実証実験の間は規制をはずす、いわば地域を限定しない期間限定の「特区制度」。これを著作権でも可能にして、新技術の試験導入中は著作権の適用を一時停止するという提言で田中教授を喜ばせました。

 そして多方面で活躍中の生貝直人。最も準備が遅れ発表すら危ぶまれましたが、出した提案はシンプルだが力強い「保護期間の最終20年アーカイブ可能化条項」。これは米国が1990年代に著作権の保護を延長した際に導入された、セーフガードの規定です。長期化で権利処理が難しくなり死蔵作品が増加する危険があるため、延長分の最後の20年間は、市場で流通していない作品の非営利デジタル公開は権利処理なく可能にしようと提言しました。

 法のデザインならエキスパートの水野祐は、「著作物のオール・オア・ナッシングの解消」を考えました。現行法では、ある作品や情報が「著作物」と認定されると、許可がなければ使えないという強い保護が与えられる。他方、著作物でないとされた情報は基本的には無保護で誰でも無償・自由に使える。著作物かどうかの判断は微妙なのに、この極端な扱いの差を何とかしたいという問題提起です。むしろ思考過程、意欲的な「ワーク・イン・プログレス」の公開となりました。

 ダンサー弁護士・岡本健太郎は、水野的な「オール・オア・ナッシングの解消」を権利の行使の面ではかろうとしました。現在、権利侵害には行為の差止(=表現禁止)と損害賠償がセットで適用される。非侵害なら、何もない。しかし侵害と非侵害の境界は曖昧です。中間領域を作ろうということで、差止請求は故意による侵害だけで可能にし、過失で侵害をしてしまった場合は賠償のみとする。また、既に作られた二次創作品などの継続利用は原則可とするという、かなり思い切った流通促進策です。

 変わり続ける情報社会の前線で活動する永井幸輔は唯一、権利の創出を提案しました。「過去作品をデジタル・リマスタリングした者に5年間の報酬請求権を与える」というもの。動機が面白い。古い作品を修復保存しても、その高画質・高音質データは「著作権切れの作品の単なる良いコピー」とみなされるので、元の権利が切れていれば利用は自由となる。それでは修復・保存が進みにくいので、短い期間、その高質データの利用者から対価を受け取れるようにして、インセンティブにしようというのです。


筆者

福井健策

福井健策(ふくい・けんさく) 弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授

1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録(第二東京弁護士会)。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)、シンガポール国立大学リサーチスカラーなど経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。著書に「著作権の世紀」「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全5巻(シリーズ編者、CRIC)、「『ネットの自由』vs.著作権」(光文社新書)、「18歳の著作権入門」(ちくまプリマ―新書)、「AIがつなげる社会」(弘文堂)ほか。 国会図書館審議会会長代理、「本の未来基金」運営委員、「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、think C世話人、デジタルアーカイブ学会理事、内閣知財本部など委員を務める。http://www.kottolaw.com Twitter: @fukuikensaku

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