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著作権保護期間「最終20年条項」+α

神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(1)

生貝直人 東洋大学准教授

少し野心的な+αの提案:より広く絶版作品全体のデジタルアーカイブ公開

 さて、ここまでの内容を、この連載の元となる骨董通りリンクのイベントで聞かれた参加者からは、「ちょっと控えめにすぎるんじゃないか」、「絶版、特に非営利アーカイブに限るのであれば、最終20年なんて限定する必要は無いんじゃないか」というご意見を多く頂きました。

 実際に私も、神様からもらった「一ヵ所だけ」著作権法を変える力をこれだけで使うのは実に勿体ないと思います。そこでもう少し野心的な、「+α」の提案をします。

 私は本業としては米国やEU(欧州連合)の情報政策を研究しているのですが、現在EUで、「デジタル単一市場における著作権指令」という、デジタル時代に対応したEU著作権法の大幅な改革を行うための新指令案が注目を集めています。この指令案はいわゆる「リンク税(11条)」や「フィルタリング義務付け(13条)」などの条項が物議を醸していますが、著作物の適切な利用を促進するための重要な規定も含まれています。

 欧州委員会が2016年9月に公開した当初案の段階から、同指令案7条1項には「文化遺産機関による絶版(out-of-commerce)作品の利用」という条項が含まれており、ここではEU加盟国に対し、文化遺産機関(公衆に開かれた図書館、ミュージアム、文書館、フィルム・オーディオ遺産機関)が所蔵する絶版作品のデジタルアーカイブ公開を可能にするための、拡大集中許諾制度の仕組みを導入することを求めています。

 拡大集中許諾制度とは、欧州の一部で導入されている、JASRACのようなある分野で相当程度の代表性を有する集中権利管理団体が、当該団体に加盟していない権利者の著作物についても、一定条件で利用許諾を行うことができるという制度です。

 しかし拡大集中許諾制度には、そもそも相当程度の代表性を有する集中権利管理団体が存在する分野自体が限られているなどの課題があります。たとえば日本で導入したとしても、JASRACが高い加盟率を持つ音楽分野以外での運用は事実上困難なのではないかと考えられます。

 この点について、2018年9月12日に欧州議会が採択した修正提案7条1a・1b項では、拡大集中許諾等のライセンス手段が機能しない分野について、そうした仕組みなしで、文化遺産機関が絶版作品をオンライン公開することを可能とするための権利制限規定を導入する旨の提案を行っています。

デジタル単一市場における著作権指令案 7条(議会修正提案、邦訳筆者)
1a項:加盟国は、以下を要件に、文化遺産機関が、そのコレクションに非営利目的で恒久的に所蔵する作品の複製を、オンラインで利用可能とできるよう、(※EUの各種著作権指令に規定される)権利の例外又は制限を規定するものとする 。
(a) 不可能でない限り、作者の氏名その他識別可能な権利者を表示する
(b) 全ての権利者は、いつでも絶版であるとみなされている作品に異議を申し立てることができ、作品への権利制限適用を除外することができる
1b項:加盟国は、1a項に従って採択された権利制限が、1項に規定された解決策(※拡大集中許諾制度)を含むがこれに限定されない適切なライセンスに基づく解決策が利用可能な分野または種類には適用されないことを規定するものとする。加盟国は、著作者、その他の権利者、集中権利管理団体、文化遺産機関と協議して、特定の分野または種類の作品に対する拡大集中許諾に基づく解決策の利用可能性を決定するものとする。

 「最終20年」にも限定されない、米国の108条(h)項と比しても相当程度広範な絶版作品のデジタルアーカイブ促進条項であり、Europeanaを中心とした全欧州でのデジタルアーカイブ推進に力を注いでいるEUらしい提案です。

 同指令案は現在審議中の段階であり(議会単独で立法を行える日本と異なり、EUでは欧州委員会・欧州議会・加盟国代表の閣僚理事会が三者共同で立法を行います)、最終的な実現の可否は今後の審議を見守る必要がありますが、世界でも影響力の強いEU28カ国がこのような方向に進もうとしていることは、非常に注目すべき国際動向であると言えます。

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筆者

生貝直人

生貝直人(いけがい・なおと) 東洋大学准教授

1982年生まれ。2005年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2012年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。東京大学大学院情報学環客員准教授、東京芸術大学特別研究員等を兼務。国立情報学研究所特任研究員、東京大学附属図書館・大学院情報学環特任講師、情報通信総合研究所研究員等を経て2018年4月より現職。著書に『情報社会と共同規制』等。専門分野は情報政策の国際比較。