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「デフレ脱却」は成るも不十分

 以上3つの基準についてアベノミクスを評価すると、第一の「デフレ脱却」は、これまでの大胆な金融政策と大規模な財政政策により、一応は実現できているだろう。総務省の統計によると、消費者物価は、変動が大きい野菜などの生鮮食品やガソリンなどのエネルギーや消費増税分を除くと、2013年終盤以降、前年比で上昇しており、この5年は少なくとも「デフレではない状態」が続いている。

 ただ、物価の上がり方が心許ないことも事実である。消費者物価の上昇率は、上記のベースで2015年の後半に前年比で1%を超えることもあったが、2016年以降は1%を下回り、ここ2年に限れば概ね0.5%以下、ほぼゼロといった状況である。周知の通り日本銀行は消費者物価上昇率の目標を2%に設定、その実現のために大量の資金を供給しているが、物価目標に遠く及ばない状況が続いている。

拡大日銀の金融政策決定会合後、記者会見する黒田東彦総裁=2018年7月31日、東京都中央区の日銀本店

 かといって、大量の資金供給をするため多額の国債購入を続け、既にGDPと概ね同規模の550兆円まで資産が積み上がっている日銀に、残された選択肢は乏しい。そもそも2%という物価目標は、物価上昇率の格差からくる円高圧力を回避するために米国やユーロ圏に合わせたものである。円高は景気の悪化や輸入品価格の低下を通じてデフレの原因となるため、2%という目標はデフレへの後戻りの目を断つために有効だとされているが、その旗を降ろして代替案を考え出すべきなのか、アベノミクス第一の矢とされた金融政策は思案の為所を迎えていると言える。

 現在の日本経済の状況は、企業の資金調達環境や個人ローンの審査が厳しくないことから判断する限り、資金供給が不十分であるが故に成長や物価の上昇が抑え込まれている訳ではないだろう。むしろ、限界的な景気刺激効果が低下したようにも見える金融政策に過度な期待をすることは、デフレ脱却後の混乱を増幅する恐れがあるばかりではなく、政府の経済政策運営に責任転嫁の余地を与えることにもなりかねない点に留意すべきではないだろうか。

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筆者

武田淳

武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト

1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。

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