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「老後は持ち家」は今や昔。年金より住宅を!

年金の半分が住居費に消えていく。持ち家前提の住宅政策の転換なしに老後の安心はない

山口智久 朝日新聞オピニオン編集長代理

年金の半分が住居費に消えていく

 以前、私は東京都内で年金暮らしの女性を取材したことがある。受け取る厚生年金は月8万6458円。そこから公団住宅の家賃4万1300円のほか介護保険料などを差し引くと、残る生活費は月約3万9千円。生活保護の水準以下である。家賃が1万円台の都営住宅に申し込んではいるが、抽選に当たらない。

 すでに他界した夫は映画制作者だった。定収がなく、国民年金の保険料を払えないときもあった。女性は数年間、会社勤めをしたことがあったので厚生年金からの支給はある。家を買う余裕などなかった。

 当時、政権奪取をうかがっていた民主党は年金改革を訴えており、それを検証するための取材だったので、書いた記事も年金についてだった。

 ところが、年金制度を変えても、この女性の年金額が劇的に上がるとは思えない。それよりも、受け取る年金の半分が住居費に消えていくのをまず何とかすべきなのではないか、と思った。

 その後、私は環境担当に配置換えになったので、後任記者たちには「住宅こそが大事だ」と訴えた。それから高齢者福祉の観点から住宅問題を地道に取材する記者たちも現れ、今回のオピニオン面企画を一緒に考えたほか、「この部屋で」などの連載が載るようになった。

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「持ち家で住宅ローンを抱えれば保守化する」

 いまの年金制度では、老後は「持ち家」に住むことがほぼ前提となっている。

 2019年度の年金支給額は、国民年金で満額を受け取る人(1人分)は月6万5008円。厚生年金では、平均的な収入で40年間働いたサラリーマンと専業主婦のモデル世帯(2人分)は月22万1504円で、単身者はざっとこの半分である。ここから家賃を支出するとなると、特に単身者にとっては苦しい。

 総務省の調査によれば、いまは高齢者世帯の8割は持ち家で暮らしている。ところが、単身の高齢者に限ってみると、持ち家の比率は約66%に落ちる。その単身高齢者が今後、ますます増える傾向にある。

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 では、なぜ高齢者の住宅問題が議論にならないのか。

 一つは、これまで政府が国民に持ち家を奨励してきたからである。かつて田中角栄が「公営集団住宅などに借家住まいさせたら、住人は共産化する。持ち家で住宅ローンを抱えれば、保守化するものだ」と語ったという話もある。

 いまも住宅金融支援機構による低利融資や住宅ローン減税などの政策を続けている。一方で、欧米にあるような家賃を補助する住宅手当制度は未整備だと、祐成保志・東大准教授は指摘する。

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筆者

山口智久

山口智久(やまぐち・ともひさ) 朝日新聞オピニオン編集長代理

1970年生まれ。1994年、朝日新聞社入社。科学部、経済部、文化くらし報道部で、主に環境、技術開発、社会保障を取材。2011年以降は文化くらし報道部、経済部、特別報道部、科学医療部でデスクを務めた。2016年5月から2018年10月まで人事部採用担当部長。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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