文在寅政権を揺るがす経済政策への不満。「人が中心の経済」の金看板の真価が問われる
2019年01月25日
韓国の輸出額が昨年、6000億ドルを史上初めて超え、過去最高額になった、世界6位の輸出国になった……。いくつも数字を挙げながら経済成長を遂げてきた韓国の「現在地」を示す一方で、そうした成長の恩恵を、必ずしも国民が広く実感できないままでいるとも素直に認め、こう述べた。
「成長の恩恵が少数の上位階層や大企業に集中しており、すべての国民に等しく行きわたっていない」
12月30日配信の記事「文在寅政権の命運は『経済』が握る」でも触れたが、輸出主導の成長モデルが行き詰まり、1997年の通貨危機を経て貧富の格差が広がる韓国。「不安社会」に根ざすさまざまな構造的課題に直面している。
その一つが、ここにきてさらに加速しつつある少子高齢化だ。
新年演説でも文在寅氏は、「子どもたちにもっと果敢に投資をしていきます」と強調。「子どものいるすべての家庭に児童手当を支給します」「国公立の幼稚園の拡充を、計画よりもさらに早く進めています」などと施策も列挙した。
人口約5100万人の韓国。1970年代初めまでは出生率が4を超えていたが、いまや一変。まだ人口は減少にこそ転じていないものの、少子化の進展ペースは日本を上回っている。
2017年の出生率は1.05。前年の1.17からさらに下がって過去最低となり、世界的にも最低水準だ。「若年層の失業問題など厳しい経済状況の反映ではないか」(韓国政府関係者)といった見方があるが、近く発表される2018年の出生率はさらに低下するとみられており、1を割りこむ可能性も指摘されている。同様に少子化が定着して久しい日本(2017年=1.43)も大きく下回る。
「子どもを持ちたくても、今の自分では無理」「2人以上ほしくても、1人が精いっぱい」。これまでの少子化問題の取材では、韓国の人々からこうした悩みをよく聞いた。子どもを持つ、持たないは完全に個人の選択の問題だが、安心して子どもを生み育てられる環境がないと、選択の余地そのものが大きく狭められてしまう。
少子化が進む要因は単純ではない。女性の社会進出の一方で、子育てと仕事の両立が難しい現実。長時間労働や、男性の育児参加の乏しさなども関係が大きい。出産を機に、女性が仕事を辞めざるを得ない「経歴断絶」の問題もある。晩婚化が進み、「結婚は当然するもの」といった価値観も大きく変わってきている。
住宅費や教育費といった経済的負担の大きさも見逃せない。
激しい受験戦争を勝ち抜いてソウルの一流大学に入り、サムスンに象徴される一握りの財閥系大企業に入社することが、韓国では典型的な「勝ち組」へのパスポート。そうした社会のありように内心疑問を抱きつつも、我が子にはそうした道を歩ませたいのが親の心理。自身の老後の蓄えもままならぬまま、所得を子どもの塾代などの教育費につぎこむ親が珍しくない。
そして、「両立の難しさ」以前の問題が実は大きい。雇用の不安定さや所得の乏しさなどから、結婚したくてもできなかったり、結婚しても子どもは持たなかったりする若者が珍しくないからだ。
韓国保健社会研究院の調査によると、韓国の2015年時点での未婚の人の割合は、20代前半、20代後半、30代前半の世代ではいずれも男女ともに日本を上回る。1995年時点ではおおむね日本より低かったという。恋愛、結婚、出産を経済的理由などから放棄せざるをえない「3放世代」という言葉が流行したのが数年前だ。
大学を卒業しても正社員の道は狭き門で、正社員の半分ほどの賃金しか手にできない非正規職のまま、不安定な暮らしを続ける若者が珍しくない。正社員も、将来にわたって仕事を続けられる保障もない。
3年前にソウルで会った当時39歳の会社員の女性は、夫と話しあって子どもは持たないと決めた経緯を話してくれた。「老後の備えで精いっぱい。政府は子どもを産めといいつつ、老後の面倒はみない。少子化もそれぞれの合理的選択の結果でしょう」。女性の言葉は、今も強く印象に残っている。
韓国の「低出産(少子化)」をめぐる大きなターニングポイントになったのは、出生率が世界的にも最低水準の1.08まで落ち込んだ2005年だった。韓国では「1.08ショック」と言われる。
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