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周回遅れだった日産のガバナンス

日産は開示基準が低い日本でも取り残されていた。起こるべくして起きたゴーン事件。

加藤裕則 朝日新聞経済部記者

辞任を示唆した西川社長

 カルロス・ゴーン被告(62)の金融商品取引法・会社法違反事件に揺れる日産自動車が、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の抜本的な見直しを迫られている。ゴーン前会長の19年間、経営のグローバル化は進んだが、経営者に対する監視体制は従来のままだった。

 2019年1月24日夜、JR横浜駅近くの日産自動車本社には報道陣約100人が詰めかけた。仏ルノーの取締役会が延びた影響で予定よりも30分ほど遅れて西川広人社長(65)が一人で姿を見せたのは午後10時過ぎだった。

 西川社長は、直前にルノーがゴーン被告を会長兼CEO(最高経営責任者)から退任させて後任にジャンドミニク・スナール氏を充てた人事や、日産がゴーン被告と前代表取締役のグレッグ・ケリー被告(62)の2人の取締役解任をめざして株主総会を4月に開くことを淡々と語った。7分ほどの説明が終わり、記者との質疑応答に移った。最初の質問者はNHKの記者だった。

「西川社長はゴーン前会長の不正を止められず、法人としての起訴も招いた。経営責任は極めて重いと思われますが、ご自身の進退についてうかがわせてください」

 西川社長は一瞬、詰まった。言葉を選びながら、慎重に答えた。

「え~とですね、確かに、え~、ガバナンスでこういう状態を招いたということは、え~、私を含め過去の経営陣の責任は当然、重いと思う」

 そして、進退について「責任を果たしてから、今おっしゃったような責任をとることを考えていく」と辞任も示唆した。

仏ルノーの取締役会を受けて記者会見する日産の西川広人社長=2019年1月24日、横浜市西区

 西川社長が常務執行役員になったのが2003年、取締役に就いたのが2005年。長らくゴーン前会長を支え、引き上げられた。この間、経営陣を律するガバナンスの構築する責任について、十分に果たしてこなかったことをこの会見で認めた形だ。

ゴーン氏は0円だった「株価連動型インセンティブ受領権」

 では、どんなところが不十分だったのか。

 日産は2018年12月25日、新たなコーポレート・ガバナンス報告書を東証に提出した。この報告書は、社外取締役の人数や割合、株の持ち合いの状況など経営陣を律する仕組みを会社自ら説明するもので、同年7月に出した新たな報告書と様変わりしていた。

 「当社前代表取締役会長らによる重大な不正行為を受け」との説明を随所に盛り込み、今後、特別委員会を設けて改善策を検討することを繰り返していた。そのうえで、役員報酬について「経営陣の報酬額決定を会長に一任していたものであるが、これを撤回した」と明記した。

 ゴーン前会長は計43億円の報酬を有価証券報告書(有報)に記載しなかった疑いで逮捕・起訴されたが、役員個々の報酬額の決定権まで握っていたことを改めて公式に認めた。

 報酬に関しては、有価証券報告書の中に誰が見ても首をかしげるような記載があった。2010年春から1億円以上の報酬を受け取った役員名やその金額、簡単な内訳を有価証券報告書に記載しなければいけないようになっており、日産でもゴーン前会長の分が掲載され、例年、10億円近くの報酬が記載されている。

 ただ、内訳にある「株価連動型インセンティブ受領権」の欄を見ると、西川氏ら他の役員が数千万円を受け取っているのに、ゴーン前会長は「0円」「―」などと毎年、受け取っていないような記述だ。

株主総会に出席した日産自動車のカルロス・ゴーン会長(右)と西川広人社長

 これに疑問を持った人がいた。株主総会の議決権行使について、機関投資家にアドバイス業務をしている男性は数年前、「外国人の高額報酬はだいたいが株価など業績連動型が理由のはずなのに」と疑問に思い、日産に電話で問い合わせたという。だが、明確な回答は得られず、今も違和感を覚えたままだ。

 役員報酬は、その総額を株主総会で定めるよう会社法で義務づけられているが、役員間でどう配分するかは各企業で決める。詳細な決め方まで有価証券報告書や総会の書類で開示することは義務づけられておらず、各企業の自主性に任せられている。そのため、株主の監視の目が届きにくいと、海外の機関投資家などから日本の開示基準の低さが問題視されていた。

「だれがどう決めているのか分からない」日本の役員報酬

日産自動車が発表した電気自動車の試作車「日産IMs」=2019年1月14日、米デトロイト
 海外では報酬が高額な分も詳細な説明を求められている。

 2000年代に入り、欧米諸国では、株主総会で株主が役員報酬の賛否を投じる「セイ・オン・ペイ」の導入など、株主による監視を強める方向で規制を強化してきた。企業も株主らに対し、業績連動型の目的や算出法などを詳細に説明を義務づけている。「日本とはレベル感が違う」(金融機関幹部)というほどだ。

 2016年には仏で、ルノーの最高経営責任者(CEO)として受け取っていたゴーン前会長氏の報酬が反対多数で否決されている。2015年の報酬約8億円に54%が反対。拘束力はないが、ルノーは変動部分などを見直して透明化を図った。

 日本の役員報酬については「だれがどう決めているのか分からない」と機関投資家からの批判が絶えない。固定部分が多いことにも「業績を上げようとする気持ちにならない」との声もある。

 人事コンサルタントのウイリス・タワーズワトソンによると、日本の役員報酬では固定が5割。米国は固定が1割で9割が業績連動、欧州は3割近くが固定となっている。

 金額が低いことも日本の特徴で、売上高1兆円以上の企業を同社が調べたところ、米国の中間値は14.0億円で、仏は5.3億円、日本は1.5億円だった。

 このため、経済産業省は日本の経営者報酬の改革を訴え、業績連動型の導入の手引をつくったり、開示項目を増やしたりして透明化を図っている。法務省や金融庁も制度改正に動き出している。企業も任意の報酬委員会を取締役会の中に設置する企業もこの数年増えているが、それでも上場企業の3割で、最終的には社長が決めるところも少なくない。

 報酬の開示制度に詳しい青山学院大学の町田祥弘教授(会計監査論)は報酬に絡む開示ルールについて、

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