諏訪和仁(すわ・かずひと) 朝日新聞記者
1972年生まれ。1995年に朝日新聞社入社、東京経済部、大阪経済部などを経験。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
幸せはいい方向に大きく変わった時に感じる。今幸せだと思う人には変化がない
佐山展生(さやま・のぶお)
インテグラル株式会社代表取締役、スカイマーク代表取締役会長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授
1953年、京都市上京区生まれ、洛星高校、京都大学工学部高分子化学科卒業。ニューヨーク大学大学院(STERN)修了(MBA)、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了(博士(学術))。76年、帝人入社。87年、三井銀行入社。99年、ユニゾン・キャピタル共同設立代表取締役。2004年、GCA共同設立代表取締役。07年、インテグラル共同設立、08年、代表取締役(現任)。15年、スカイマーク代表取締役会長(現任)。
一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院客員教授、関西大学経済学部客員教授も務める。
「生き方と哲学」(講談社刊)を選んだのは、かなり若いころから、ビジネスで行き詰まったら、哲学だと思っていたからでした。
この本を書いた鬼界彰夫さんは、たまたま京都の洛星中学・高校の同級生なんです。中学1年のとき同じクラスだったのを覚えています。そのときから優秀だったんです。
彼は中学1年からもう人生について考えていました。私は30歳で初めて人生について考えたんです。えらい違いなんですね。それ以来、私もずっと哲学に興味あったんで、今回、彼の本を読もうと思ったんです。
それが、この本は簡単じゃないんです。たとえば、「生き方について考えるとは」のところを何回も読んだら、何となく「そういうことかなあ」とまではいきますが、本質まではよく分からない。もうちょっと分かるかなと思ったんですけど、むちゃくちゃ奥が深いんです。だから、書いた本人に聞くのが一番早いと思って会いに行ったんですね。
鬼界さんは今、筑波大学で哲学の教授をしているので、筑波に行って話を聞いてきました。会ったのは40年ぶりくらいです。解説してもらって、いろんなことが分かりました。ま、私の勉強不足でもあるんですが。
まず、知らなかったことは古代ギリシャの哲学者、ソクラテスのことです。彼は本を書いたことがないってご存じでした? 哲学書を書いたイメージがあるでしょ。
でも、ソクラテスは書いてないんです。自らがいかに生きるべきかを考えて話したことを、プラトンやアリストテレスやいろんな人たちが、「ソクラテスはこう言っていた」と体系化していって学問になっていったというんです。
その後、いろんな哲学論が出てきましたが、キルケゴールでまた原点に戻ったんだそうです。ソクラテスみたいに、「自らがいかに生きるべきか」というところに戻ったと教えてもらいました。
もうひとつ知らなかったことは、有名な投資家のジョージ・ソロスや、経営学者のドラッカーは哲学を学んでるんです。彼らはそういう基礎をちゃんと持っていたんですね。そんな話を鬼界さんから聞いたんです。
ドラッカーの本は日本でもすごい長いこと売れてるでしょ。ちょっと思いついて書いて、ぱっと売れてるようなビジネス書とは違うんですよ。
おもしろいと思ったのは、鬼界さんは本にも書いていますが、仕事とプライベートは違うと言うんですよね。仕事をする「社会的時間」と「私的時間」の二つを分けるべきだと。
しかし、私は若い人たちに、「公私一体」をおすすめしてるんです。仕事は仕事で、プライベートは別世界というんじゃなくて、これら二つの線引きが難しい方が理想じゃないかと言っているんです。働かされている感があればあるほど、二つが分かれて、ワークライフバランスっていう話になります。そうじゃなくて、自分がおもしろいと思って仕事していたら、そこに境界線ってなくなってくるんです。
そう思っていたんですが、鬼界さんと私は生き方が違うということが分かりました。実際、生きてきた道も違いますからね。鬼界さんにとっての社会的時間は、たとえば学生の成績をつけているときだとか、授業しているときだと言うんです。
私も大学院で授業をしていますが、やらされていると思ったことは一度もないんです。言いたいことを言っているからでしょう。