「国境管理してEU離脱」しか道はない
英議会はメイ首相とEUの合意案になぜ反発するのか。それを理解すれば解決策が見える
山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

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「根本にある問題」を理解していないブレグジット報道
昨年末から、私はブレグジットについての小論をWEBRONZAで書き始めた。NHKや主要な全国紙でさえ、イギリスでの報道をそのままオウム返しに伝えているだけで、なぜメイ首相とEUがこういう内容でしか合意できなかったのか、なぜイギリス議会でこの合意案に反発が強いのかという“根本にある問題”を理解して報道しているように思えなかったからである。
この“根本にある問題”を分析して正確かつ適切にブレグジットを報道するためには、イギリスとEUとの歴史的な関係はもとより、関税同盟と自由貿易協定はどの点が違うのかといった通商問題の基本、関税同盟と単一市場というEUの根幹を形成する制度について、十分に理解していなければならない(参照「ブレクジットを理解したいあなたへ」)。これらはブレグジットを理解する上で、基本中の基本、日本語で言うとイロハ、英語だとABCである。
逆に言うと、これを正確にかつ十分理解していれば、ブレグジットについてなぜ問題や対立が起きるのか、状況が変化しても正しい分析に基づく報道を行うことができる。
ただし、イギリスの欧州懐疑主義、通商問題、EUの制度的特徴の全てについて、基本的な理解が必要となる。特定の分野だけの専門知識があるだけでは、正しいアプローチはできない。
マスコミだけではない。ある大学教授によるブレグジットの解説記事を読んだが、この基本の基本であるツボに触れながら本質的な部分について解説しているようには思えなかった。ある政府機関の資料も経緯の説明や合意内容や事実を羅列しているだけである。これでは何がどうして問題となるのか、さっぱり分らない。