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「国境管理してEU離脱」しか道はない

英議会はメイ首相とEUの合意案になぜ反発するのか。それを理解すれば解決策が見える

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

「国境管理せず」を優先し「完全な離脱」を諦めた離脱案

 1月29日イギリス議会は、メイ首相とEUが交渉した離脱案の中のバックストップ(2020年末に終わる移行期間後のあり方について交渉がまとまらなかった時に採られるセイフティネット)条項について再交渉するよう求めた。これに対して、メイ首相の交渉相手のユンケル欧州委員会委員長らEU側は絶対に応じられないと直ちに拒絶した。

 それはなぜなのか、日本のマスコミは正確に分析して報道できるのだろうか。

 もちろん、イギリス政府とEUが長期間交渉した結果の合意であり、また他のEU加盟の27カ国の了承を採っているので、いまさらこれを覆せないという、一般に行われている表面的な見方を日本に伝えることならできるだろう。

 しかし、EUとしては、“根本にある問題”を解決するためにはこれ以外のバックストップ案はないから、拒否しているのである。

 その“根本にある問題”とは、アイルランド紛争を再び招かないためにアイルランドと英領北アイルランドの間で国境管理(ハード・ボーダー)を実施しないという要請と、イギリスがEUの関税同盟・単一市場から離脱・独立するというブレグジットが、そもそも両立しないということなのだ。

 「ブレクジット解決の唯一の道は?」で書いたように、完全に離脱したいのなら全く別個の経済地域となるので(日本が外国との間で設けているような)厳しい国境管理が必要だし、現状通り国境管理をなくしたままにしたいならEUと同じ経済地域となるようにEUの関税同盟と単一市場の中に留まるしかなく完全な離脱は諦めるしかない。

 どちらかをとるなら、他方を犠牲にするしかないのだ。

 メイ首相とEUが交渉した離脱案は、国境管理を実施しないということを優先して、本来ブレグジットが求めるEUの関税同盟・単一市場からの離脱・独立をほとんど諦めてしまった。イギリス議会のブレグジッター(EU離脱派)が反対するのは当然である。

拡大gmstockstudio/shutterstock.com

ブレグジッターが重視した「関税自主権の回復」

 くどいようだが、もっと分りやすく説明しよう。

 ブレグジッターが求める本来のブレグジット“完全な離脱”とは、日本を例にとると、九州と愛媛県が“その他日本”から独立した国になるようなものなのだ。

 モノの貿易についてみると、九州・愛媛連合国は独立国なので、“その他日本”とは異なる食品や自動車などの基準や環境や労働の規制・政策を実施できるし、独自の通商・貿易政策を採ることもできる。具体的には、外国に対して“その他日本”が適用する関税と異なる関税も課す(例えば、牛肉の関税を“その他日本”の38.5%に対して50%とする)ことができるうえ、“その他日本”が結んでいない国(例えば中国)と自由貿易協定を結ぶことも、“その他日本”と同じ相手国でも違う内容の自由貿易協定を結ぶこと(例えば、豪州に対して“その他日本”が牛肉の関税を9%で譲歩しても、九州・愛媛連合国は20%までしか譲歩しない)も可能である。

 九州・愛媛連合国が日本に留まる場合のように、イギリスがEUの関税同盟の中にいるなら、EU域外国に対する関税はEU共通のもので、イギリスが単独で決定することはできない。したがって、他国との間で関税を削減したり撤廃したりする自由貿易協定を、EUとは別個にイギリスだけが結ぶことはできない(日本に留まる九州・愛媛連合国が“その他日本”とは独自にアメリカと自由貿易協定を結んで関税を撤廃することはできないのと同じ)。一方、EUの関税同盟から離脱・独立するなら、イギリスは“独立した貿易政策”(independent UK trade policy)を回復することができる。ある意味で「関税自主権の回復」である。

 これこそブレグジッターが重視したものだった。

 独立した国(関税地域)なら、EUも含め外国と貿易する時には通関審査という国境管理が必要となる。日本が外国との貿易の際、通関審査をしているのと同様である。しかし、これは、アイルランドと北アイルランドの間で国境管理を実施しないという要請と対立する。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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