稲田清英(いなだ・きよひで) 朝日新聞オピニオン編集部次長
1972年生まれ。1997年に朝日新聞社に入り、東京本社や西部本社(福岡)の経済部を経て、2006年にソウルに留学して韓国語を学んだ。2008~11年にソウル支局員。東南アジアや中国、欧州などでも出張取材。2018年7月から現職。共著に「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「4人に1人が社長」の国。文在寅政権の経済政策に反発強く
何不自由ない財閥オーナー一族などの富裕層と、裕福ではないながらもたくましく生きる庶民層の両者が織りなす葛藤や愛憎、対立や和解、といった人間模様は、韓国ドラマでよくみかける展開だろう。そして、ソウルなどの大都市の街中で、軽食店や小売店などを懸命に切り盛りする自営業者の姿も、庶民層の典型的なイメージの一つとして目にする。
今回は韓国での「自営業者」という存在を通じて、韓国経済のありようについて少し考えてみたい。
実は韓国は、働き手の中で自営業者の存在感が大きい。それを示すのに、「4人に1人が社長」といった言い方もあるほどだ。
経済協力開発機構(OECD)によると、韓国では就業者に占める自営業者の割合が約25%。文字どおり、「4人に1人」だ。OECD各国の中でも多い方で、約10%の日本を大きく上回る。こうした状況は、韓国の産業構造と密接に関連している。
韓国では1997年の通貨危機を経て進んだ労働分野での規制緩和などにより、働き手はリストラの不安と背中合わせになった。
安心して長く働き続けられる、という保障はなく、大企業の正社員とて必ずしも例外ではない。通貨危機や、2008年の「リーマン・ショック」などの不況期は言うに及ばず、働き盛りの中高年世代が子どもの教育費などで出費が一番かさむ時期にリストラに直面するケースも相次いでいる。
一方、負担の大きい教育費や住宅費をまかないつつ暮らしていけるような良質な雇用は、厚みと広がりを欠く。サムスンや現代自動車、LGといった財閥系大企業は多くの人々が望む職場だが、実際に就ける人は一握りだ。
韓国のかつての急速な経済成長は「圧縮成長」などとも称されるが、一部の大企業が政府の後押しも受けて主役を担う一方、素材や部品などは海外からの輸入に頼る部分が大きく、国内に競争力のある中小企業が十分育たない、という結果を招いた。
今も大企業の圧倒的な力が中小企業の成長を阻んでいる面もあり、一部の大企業以外には、賃金や福利厚生などの面で恵まれた雇用の受け皿が十分にない、という構図になっている。
こうしたなか、職を失ったり、賃金が下がったりして苦境に陥った人たちはどうするのか。