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著作権を金継ぎする/デジタル・リマスタリング権

神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(4)

永井幸輔 弁護士

権利発生の4要件

 もう少し詳しく説明しましょう。

・権利発生の要件
 ① パブリック・ドメインであること
 ② 「高度の利便性(usability)」があること
 ③ 同じ作品の他製品と区別可能であること
 ④ 登録
・権利の内容
 ・著作隣接権
 ・報酬請求権のみ
 ・保護期間5年

 まず、権利が発生するためには、①パブリック・ドメイン、すなわち著作権保護期間が切れている作品である必要があります。この権利の目的が、パブリック・ドメイン作品の流通を推進することにあるからです。保護期間が存続しているものの権利者が不明な作品についても、流通促進の観点からこの権利を付与することも考えられますが、残存する著作権者の著作権とバッティングして権利処理が複雑になるため除外しています。

 次に、②「高度の利便性(usability)」があることを要件としました。作品に僅かでも手を加えると権利が付与されてしまうのでは、権利が乱立し逆に著作物の流通が阻害されかねないため、一定のハードルを設けています。また、この権利の目的が、単なる作品の復活にとどまらず、デジタル・リマスタリングによって作品を読みやすく(享受しやすく)すること―作品価値へのアクセスの向上=usabilityの向上にあることを考慮しています。

 さらに、③この権利の付与によって、既に利用可能な状態にある同じパブリック・ドメイン作品の利用が阻害されることを防ぐ必要があるため、何らかの方法で他製品と区別できることを要件としました。

 最後に、④当該製品にデジタル・リマスタリング権が発生しているかどうかの判断が難しいことから、データベースへの登録を要件としています。これは、作品のライセンスを望む利用者へのアクセスの確保にも繋がるでしょう。

拡大GaudiLab/shutterstock.com

報酬請求権に限定、保護期間も5年のみ

 それでは、権利の内容はどうでしょうか。

 まず、この権利は当然ながら著作権そのものの復活や延長を与えることは想定していません。著作物の伝達に重要な役割を果たす者に与えられる権利である著作隣接権として付与することが望ましいでしょう。

 また、権利の内容は「報酬請求権」に限定します。すなわち、他人に利用された場合に利用料を請求することはできますが、利用をとめることはできません。権利発生の有無が分かりにくい以上、強過ぎない権利にすることが、パブリック・ドメイン作品の利用を萎縮させないためにも必要でしょう。

 そして、権利の保護期間は5年と短く設定しました。ここは賛否もあるでしょうが、著作権が切れた作品であるにも関わらず与えられる特別な権利の新設ですので、制限的な範囲でのみ認めるべきと考えます。

 なお、同趣旨の規程として、ドイツ著作権法には「学術的刊行物」について以下の権利保護が存在します。

ドイツ著作権法70条(本山雅弘訳 公益社団法人著作権情報センター)
(1) 著作権の保護を受けない著作物又は文書の刊行物は、それが学術的な整理の成果を示し、かつ、当該著作物又は文書に係る従前知られた刊行物と実質的に区別されるときは、第1章の規定を準用することによって保護を受ける。
(2) この権利は、刊行物の作成者に帰属する。
(3) この権利は、刊行物の発行後25年をもって消滅する。ただし、刊行物がこの期間内に発行されないときは、その製作後25年をもってすでに消滅する。この期間は、第69条に基づいて計算するものとする。

 また、イタリア著作権法には「文化的および学術的な出版」について以下の権利保護が存在します。

イタリア著作権法85条の4(三浦正広訳、公益社団法人著作権情報センター)
1 著作者人格権を侵害することなく、公有にある著作物の文化的および学術的出版物を何らかの方法または手段で発行する者は、批評的または分析的評価から生ずる著作物の排他的利用権を有する。
2 発行者と、前項に規定されている経済的利用権の権利者を拘束する契約関係を害することなく、文化的および学術的出版物について責任を負う者は、名称を付する権利を有する。
3 第1項に規定されている排他的権利の存続期間は、形式や手段を問わず、適法な最初の発行から20年とする。

 いずれも、既に著作権の保護を受けられないパブリック・ドメインの著作物について、出版物の作成者または発行者に対して、一定の権利を与える内容です。共通の特徴としては、学術的・批評的な内容が要件となっていること、保護期間が比較的短期間であることが挙げられるでしょう。

 さて、いかがでしょうか。実はこのデジタル・リマスタリング権の着想は、2013年に論争が起こった「大正新脩大藏経」に遡ります。

 当時、国立国会図書館は、「近代デジタルライブラリー」でインターネット公開されていた「大正新脩大藏経」と「南伝大藏経」(いずれも保護期間が切れているとの判断で公開されていました)について、その刊行元の申し出を受けて、同ライブラリーでの公開を一時停止しました。

 刊行元である出版社は、著作権、版面権等に関する法的な主張と共に、民業を圧迫してまで販売中の書籍をインターネット公開すべきではないと主張しました。民間の事業者の投資によるリマスタリングによって出版できた著作物について、何らかの保護を行うべきか、本稿と同様の問題意識を見ることができます。

 今後、民間・公共を問わず作品のアーカイブが一層進むことが予想されますが、アーカイブのための投資とその回収を巡り、同様の問題は起こり得るのではないでしょうか。

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筆者

永井幸輔

永井幸輔(ながい・こうすけ) 弁護士

弁護士/特定非営利活動法人コモンスフィア(Creative Commons Japan)理事/Arts and Law。インターネット企業にインハウス弁護士として勤務しつつ、美術・演劇・ファッション・出版・映画・音楽などの文化芸術とインターネットやテックの交錯する領域を中心に法務アドバイスを提供。執筆・編集に『ファッションは更新できるのか?会議 人と服と社会のプロセス・イノベーションを夢想する』(フィルムアート社)、「著作権をめぐる表現と権利の物語」(MdN2018年2月号)、「自分ごとの著作権。」(MdN2016年1月号)、「デザイナーのための著作権と法律講座」(MdN、共同担当)、「法は創造性をつぶすのか」(広告2013年5月号)等。