公務員たたきでは問題は解決しない
2019年02月13日
厚生労働省の毎月勤労統計(毎勤)や賃金構造基本調査などをめぐり、法に違反した調査方法が相次いで発覚し、公務員への風当たりが強まっている。政策を決めるために不可欠な基幹統計が法律に定められた手法を逸脱して行われていたことは、確かに大きな問題だ。だが、それ以上にいま問わなければならない問題がある。それは、客観的データによって国民生活を向上させる政策作りを支えるものとしての公的統計が、政権の失政をカバーする錬金術としての公的統計へと奇妙な変質を始めつつあるのではないか、ということだ。
2月3日のNHKの「日曜討論会」で、岸田文雄・自民党政調会長は不正統計問題に絡み、「統計の信頼性に対する意識を強く持って取り組んできた道半ばで(不正の)事実が明らかなったことは大変残念」と語った。この言葉通り、第2次安倍政権以降、政権は統計に対し、「強い意識を持った取り組み」を見せ続けてきた。
経済政策を左右し、株価の変動にも影響を与える統計に関心を持つことは当たり前、と言われるかもしれない。だが、その関心の度合いは突出している。その一例が、このところ国会でも取り上げられている2015年10月16日の経済財政諮問会議での麻生太郎副総理兼財務相の発言だ。
議事録によると、麻生氏は「私どもは気になっているのだが、統計についてである」と口火を切り、「家計調査等々は、消費動向をタイムリーに把握する指標として期待されているにもかかわらず、有識者がよく指摘をされるように、販売側の統計、小売業販売と異なった動きをしている。また、高齢者の消費動向が色濃く反映された結果が出ているという言い方もされている。毎月勤労統計については、企業サンプルの入れ替え時には変動があるということもよく指摘をされている。また、消費動向の中に入っていないものとして、今、通販の額は物すごい勢いで増えているが、統計に入っていない」とし、拡大しているネット販売が反映されていないことなども挙げて「総務省を始めとした関係省庁においても、GDP統計を担当する内閣府と協力して、これらの基礎統計の充実にぜひ努めていただきたい」と、主要な統計のそれぞれについて、こと細かに要請している。
発言の中の家計調査については、当時、百貨店やスーパーなどの販売側の統計である経済産業省の「商業動態統計」の小売業販売額が堅調なこととの乖離があり、年金頼みで消費を抑えがちな高齢者の消費動向が反映されやすいことが取り沙汰されていた。毎勤についても、2015年に調査対象企業の入れ替えに伴い、現金給与総額が大幅に下方修正され、「アベノミクスによる賃上げ」に疑問符がついた時期だった。
麻生氏は2月5日の国会中継でこの発言について、統計の指標が今の時代には即していないという問題意識にもとづいたものにすぎない、という趣旨の釈明をしている。だが、この発言以降、統計の指標を変えることによって政治の成果の見え方が変わる、という発想が広がっていく。たとえば、3日後の同年10月19日付「日本経済新聞」の「エコノフォーカス」は、そのひとつだ。
「GDP600兆円、政府が掲げるアベノミクス『新三本の矢』目標、新基準、20兆円上積み」と題したこの記事は、「新三本の矢」で掲げられたGDP600兆円の目標は、意外と容易に達成できるかもしれないと述べる。ここでは、16日の麻生発言を「一部指標は調査サンプルの偏りで実態以上に悪いと指摘し、基礎統計の精度向上を提案した」と引用、GDP推計の基準とされる国連の「国民経済計算(SNA)」の新しい基準に沿って、現在は付加価値を生まない「経費」として扱われている研究開発費を「投資」としてGDPに算入すれば、名目GDPが20兆円かさ上げされると指摘する。そのうえで、年3%の名目成長率が続けば2020年には600兆円を超えるとしている。
3%成長は起きず、この記事は構想倒れとなった。だが、ここで重要なことは、麻生発言以後、継続調査を通じて社会の変化を客観的につかみ恣意を排した適切な政策を打ち出す、という従来の統計の役割が、この記事のように、政策を効果的に「見せる」ショーケース、政策の不備を数字の操作で補う「政策の錬金術」の道具へと転換させられる事態が相次いでいることだ。この間、国会で問題になってきたいくつものデータ改変の背景には、そうした統計観の変化がうかがわれる。
2018年の裁量労働制のデータ改変は、裁量労働制で働く人の方が長時間労働の傾向がある、という客観的な調査結果がすでにあったにもかかわらず、
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