
衆院予算委で、立憲民主党会派の大串博志氏の質問に答弁するため挙手する麻生太郎財務相=2019年2月4日
厚生労働省の毎月勤労統計(毎勤)や賃金構造基本調査などをめぐり、法に違反した調査方法が相次いで発覚し、公務員への風当たりが強まっている。政策を決めるために不可欠な基幹統計が法律に定められた手法を逸脱して行われていたことは、確かに大きな問題だ。だが、それ以上にいま問わなければならない問題がある。それは、客観的データによって国民生活を向上させる政策作りを支えるものとしての公的統計が、政権の失政をカバーする錬金術としての公的統計へと奇妙な変質を始めつつあるのではないか、ということだ。
連載「世界一企業が活躍しやすい国のリアル」
統計への強い関心
2月3日のNHKの「日曜討論会」で、岸田文雄・自民党政調会長は不正統計問題に絡み、「統計の信頼性に対する意識を強く持って取り組んできた道半ばで(不正の)事実が明らかなったことは大変残念」と語った。この言葉通り、第2次安倍政権以降、政権は統計に対し、「強い意識を持った取り組み」を見せ続けてきた。
経済政策を左右し、株価の変動にも影響を与える統計に関心を持つことは当たり前、と言われるかもしれない。だが、その関心の度合いは突出している。その一例が、このところ国会でも取り上げられている2015年10月16日の経済財政諮問会議での麻生太郎副総理兼財務相の発言だ。
議事録によると、麻生氏は「私どもは気になっているのだが、統計についてである」と口火を切り、「家計調査等々は、消費動向をタイムリーに把握する指標として期待されているにもかかわらず、有識者がよく指摘をされるように、販売側の統計、小売業販売と異なった動きをしている。また、高齢者の消費動向が色濃く反映された結果が出ているという言い方もされている。毎月勤労統計については、企業サンプルの入れ替え時には変動があるということもよく指摘をされている。また、消費動向の中に入っていないものとして、今、通販の額は物すごい勢いで増えているが、統計に入っていない」とし、拡大しているネット販売が反映されていないことなども挙げて「総務省を始めとした関係省庁においても、GDP統計を担当する内閣府と協力して、これらの基礎統計の充実にぜひ努めていただきたい」と、主要な統計のそれぞれについて、こと細かに要請している。
発言の中の家計調査については、当時、百貨店やスーパーなどの販売側の統計である経済産業省の「商業動態統計」の小売業販売額が堅調なこととの乖離があり、年金頼みで消費を抑えがちな高齢者の消費動向が反映されやすいことが取り沙汰されていた。毎勤についても、2015年に調査対象企業の入れ替えに伴い、現金給与総額が大幅に下方修正され、「アベノミクスによる賃上げ」に疑問符がついた時期だった。