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クリエイターのための「差止請求の一部制限」

神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(5)

岡本健太郎 弁護士

拡大GoodStudio/shutterstock.com

著作権に若干の「謙虚さ」を

 “For the Arts”の旗印のもと、日ごろ、アーティスト、プロデューサー、起業家の方々を中心に、法務サポートを行っています。本稿では、こうした方々を、敬意をこめて「クリエイター」と呼びます。

 著作権は、クリエイターの創作活動を保護する一方、一部では足枷にもなっているように感じます。

 クリエイターは、創作活動において、第三者の著作物を参考又は利用している側面があり、第三者から著作権侵害のクレームを受けるリスクがあります。多くのクリエイターは、おそらく「問題はないだろう」と信じ、費用と時間をかけて創作活動を行っているでしょう。

 しかし、第三者が著作権侵害を理由に差止請求を行い、それが認められると、作品の展示、売買、複製などの停止、破棄などが強制されてしまうのです。

 リレー連載「神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら」。クリエイターの創作活動を後押しするため、著作権に若干の「謙虚さ」を求めるのはどうでしょうか。

差止請求のハードルは損害賠償請求より低い

 著作権の効力の1つに差止請求があり、著作権法上、概要、以下のように規定されています(112条)。

・ 著作者、著作権者等は、その著作者人格権、著作権等を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる(1項)
・ 著作者、著作権者等は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によって作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる(2項)

 規定上、著作権侵害を理由とする差止請求は、著作権の侵害又はその危険があれば認められます。侵害者の故意・過失は不要であり、侵害者が無過失でも認められます。また、権利侵害の違法性が高度でない場合も認められ得ますし、差止により侵害者に生じる損失は、特に考慮されません(東京高判1985年10月17日〔藤田嗣治絵画複製事件判決〕

 これに対して、損害賠償請求は、著作権侵害の事実や損害に加えて、侵害者の故意・過失が必要です。

 また、プライバシー侵害等を理由とする差止請求は、①差止を受ける場合の侵害者の不利益も考慮されますし、②侵害行為が明らかに予測される、③被害者が重大な損失を受ける、④事後的な回復が困難である、といった要件を満たす必要もあります(最判2002年9月24日〔石に泳ぐ魚事件〕)。

 著作権侵害を理由とする差止請求は、作品の利用停止や廃棄など、侵害者にとって、賠償金の支払よりも厳しい結果をもたらし得るにもかかわらず、その要件は、損害賠償請求よりも緩やかなのです。

 また、「著作権よりもプライバシー等の方が厚く保護される」と思う方も多いかもしれませんが、著作権侵害に基づく差止請求は、プライバシー侵害等に基づく差止請求よりも、その要件は緩やかなのです。


筆者

岡本健太郎

岡本健太郎(おかもと・けんたろう) 弁護士

弁護士・ニューヨーク州弁護士・証券アナリスト(CMA)。神戸大学大学院客員准教授、東京藝術大学非常勤講師。ロイター通信社(日本・英国)等を経て、現在は、骨董通り法律事務所パートナー。主に、国内外のメディア、アート、エンターテインメント法務に従事。 慶應義塾大学経済学部卒、一橋大学法科大学院修了。米国ペンシルバニア大学法学修士課程修了(Distinction)、Wharton Business and Law Certificate取得。趣味はダンス(ハウスダンス、リズムタップ)と茶道(松尾流)。著作は事務所ウェブサイト(www.kottolaw.com)に掲載しています。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです