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クリエイターのための「差止請求の一部制限」

神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(5)

岡本健太郎 弁護士

著作権侵害が不明確な事案も少なくない

 差止請求は、それを行う著作権者にとっては、使い勝手の良い制度かもしれません。裁判では、例えば、自己の著作物を模倣した侵害作品について、展示、販売、複製などの利用行為を停止させたり、破棄させたりできます。また、和解交渉において、侵害作品の利用行為の停止、廃棄等をちらつかせ、より高額の解決金を獲得できるかもしれません。

 逆に、侵害作品のクリエイターは、弱い立場です。作品の利用行為が制限される上、廃棄のリスクもあるのです。著作権侵害が明白であれば、自己責任かもしれません。

 ただ、実務上、以下のように、著作権侵害が明白でない事案も少なくないのです。

・翻案権侵害の事例

 著作権侵害の1つに、翻案権侵害があります。翻案権侵害は、著作権者に無断で二次的著作物(著作権者の著作物を参考にした類似作品)を制作した場合などに成立します。

 ちょっと実例を見てみましょう。実際の裁判で、以下の例①から④のうち、著作権侵害とされたものはどれでしょうか。いずれも、左側が原告の作品、右側が被告の作品です(裁判所のウェブサイト)。

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 判例では、例①と例②は著作権侵害を否定し、例③と例④は著作権侵害を認めました。その境界線は明らかでしょうか? 実務上も、著作権侵害の成否が一目瞭然ではない事案は少なくありません。

・複雑化する条文とその解釈

 著作権法の条文は、複雑化しています。2018年改正により、AI等の技術促進を目的とした規定が盛込まれましたが、例えば、47条の5は、柱書だけで550文字以上です。侵害/非侵害の範囲を明確にするといった事情はあるでしょうが、一読して理解できる人は少ないのではないでしょうか。

 また、新しい条文に限らず、その趣旨や解釈を記載した文献はありますが、実務で起こる全ての問題は網羅していません。このため、文献を調査したとしても、著作権侵害となる場合が常に明確になるわけでもないのです。

・その他

 昨年12月には、著作権の保護期間が延長されました。橋本弁護士がこのリレー連載「明日の著作権」の「著作権の保護期間 旧法からの軽やかな卒業」で熱弁していたように、著作権の保護期間の計算は複雑怪奇であり、保護期間満了の有無が分からない著作物もあるでしょう。

 さらには、今後、AIにより、人が創作した著作物との判別が困難なコンテンツが大量に生成されるかもしれません。著作権法上のAI生成物の取扱については議論の最中ですが、「AI生成物であり、権利処理は不要と思っていたのに、実際は著作物であった」という事態もあり得ます。

 このように、「第三者の著作権を侵害するか否か」を明確に判断し難い状況であっても、クリエイターが果敢に創作活動を行っていければよいのです。ただ、現実には、著作権侵害の疑いがあり、差止請求により、作品の利用停止や廃棄を余儀なくされるとなれば、躊躇する場合も少なくないのではないでしょうか。

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筆者

岡本健太郎

岡本健太郎(おかもと・けんたろう) 弁護士

弁護士・ニューヨーク州弁護士・証券アナリスト(CMA)。神戸大学大学院客員准教授、東京藝術大学非常勤講師。ロイター通信社(日本・英国)等を経て、現在は、骨董通り法律事務所パートナー。主に、国内外のメディア、アート、エンターテインメント法務に従事。 慶應義塾大学経済学部卒、一橋大学法科大学院修了。米国ペンシルバニア大学法学修士課程修了(Distinction)、Wharton Business and Law Certificate取得。趣味はダンス(ハウスダンス、リズムタップ)と茶道(松尾流)。著作は事務所ウェブサイト(www.kottolaw.com)に掲載しています。