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クリエイターのための「差止請求の一部制限」

神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(5)

岡本健太郎 弁護士

差止請求を制限する方法は?

・権利濫用

 過去にも、差止請求を制限する裁判例がありました。

 例えば、掲載写真177点、頁数95頁の写真集の最終頁に写真1点が無許諾で使用された事案(那覇地判2008年9月24日〔写真で見る首里城事件〕)で、裁判所は、著作権侵害等に基づく損害賠償請求は認めた一方、権利濫用の考え方により、出版の差止請求は否定しました。原告(撮影者)の損害は少額である一方、差止により、被告(出版社)が多額の資本を投じたにもかかわらず、写真集を販売できなくなるという被告の不利益を考慮したのです。

 なお、特定の投資を行った後に、相手方から不利な条件を押し付けられ、身動きがとり難くなることなどから、「ホールド・アップ問題」ともいわれます。

 このように、現行の著作権法の枠組みの中で、権利濫用の考え方により、各裁判官の判断で、差止請求を制限していくこともあり得ます。

 ただ、権利濫用は、一般にハードルが高い主張である上、裁判官によって異なる判断となる可能性があり、事前予測が困難です。クリエイターが安心して思い切った創作活動を行うには、より分かりやすい基準が必要と思います。

・アメリカ著作権局の提案

 アメリカ法では、著作権侵害の一般的な救済方法は損害賠償請求であり、差止請求は、ある種、特別の救済方法であって裁判所の裁量の余地があります。

 そんなアメリカでは、2015年6月、著作権局が、孤児著作物の利用について、概要、以下のような提案を行いました(Orphan Works and Mass Digitization50頁以下)。

① 「十分な事前調査の実施」などの一定の要件を満たす場合には、孤児著作物の利用行為について、差止請求を将来の差止に限るとともに、損害賠償請求をライセンス料などの合理的な補償額に限定する。
② 孤児著作物が二次的著作物に利用された場合には、原著作物の著作者の名誉や声望を害しない限り、合理的な補償額を支払うことにより、差止請求を回避できる。

 ここでいう「将来の差止」とは、出版物でいえば、将来の出版や増刷を制限することをいい、印刷済みの出版物の販売は制限されません。インターネット上のコンテンツに(やや強引に)置き換えれば、アップロード済みのコンテンツについては、将来の販売(≒課金)は制限されるものの、配信自体は引き続き可能といったところでしょうか。

 こうした将来効的な対応により、クリエイターが「投資と努力の結果を全て失う」といったリスクは限定できるように思われます。また、クリエイターに著作権を侵害された著作権者に不利益はありますが、合理的な補償額を獲得できれば、少なくとも経済的な不利益は限定できそうです。

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筆者

岡本健太郎

岡本健太郎(おかもと・けんたろう) 弁護士

弁護士・ニューヨーク州弁護士・証券アナリスト(CMA)。神戸大学大学院客員准教授、東京藝術大学非常勤講師。ロイター通信社(日本・英国)等を経て、現在は、骨董通り法律事務所パートナー。主に、国内外のメディア、アート、エンターテインメント法務に従事。 慶應義塾大学経済学部卒、一橋大学法科大学院修了。米国ペンシルバニア大学法学修士課程修了(Distinction)、Wharton Business and Law Certificate取得。趣味はダンス(ハウスダンス、リズムタップ)と茶道(松尾流)。著作は事務所ウェブサイト(www.kottolaw.com)に掲載しています。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです