武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト
1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
重要だがどこかあやしかった毎月勤労調査にメス。統計の立て直しに向けた建設的議論を
昨年の暮れ、新年の経済展望に関するアンケートの中に、「注目すべき経済指標」という問いがあった。回答として私は、昨今世間を騒がせている厚生労働省の「毎月勤労統計」を挙げた。
もちろん、その段階では、今や一大政治問題に発展した統計不正について指摘したかったわけではなかった。毎月勤労統計が賃金や雇用の状況を示すものであり、賃金の動向こそが、今年も景気拡大が続くかどうかのカギを握っていたためである。
そうした筆者の意とは関係なく、この統計の名前がメディアを通じて広く知られることになった経緯や問題点は、厚生労働省が1月11日発表した「毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて」という口語調の長いタイトルを冠した資料に詳しく記載されている。以下、要点を整理する。
厚労省は2004年から2017年までの13年間、規定に反した調査方法を続けていた。具体的には、調査対象のうち、比較的大きな事業所(500人以上規模)の調査について「全数調査」とすべきところを、東京都だけサンプル調査(抽出調査)としていた。2018年10月分について言うと、従業員500人以上の事業所は1464あったが、そのうち調査したのは約3分の1の491事業所であった。それでも、全体像を把握するに足るということであれば問題はないが、実際には過小推計であったようである。
データの処理方法にも問題があった。上記の通り、東京都のデータは全体の3分の1をサンプルとして調査したが、全国の数字を集計する際には実態の数に「復元」、つまり3倍にする処理をすべきところを、しなかった。東京の賃金水準は全国平均より高いが、東京の事業所の数を実際の3分の1として集計したことで、全国平均の賃金は実態より低くなってしまった。
そのほか、東京都の「499人以下規模の事業所」についても、2009年以降のデータが正しく「復元」されずに集計されていたことも発覚するなど、かなり杜撰(ずさん)な状況が長期間続いていたことが明らかとなった。
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