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エコノミストが懸念する統計不正の切実な問題点

重要だがどこかあやしかった毎月勤労調査にメス。統計の立て直しに向けた建設的議論を

武田淳 伊藤忠総研チーフエコノミスト

きっかけは統計委員会・西村委員長の指摘

 こうした事実をメディアが初めて報じたのは、昨年暮れの朝日新聞だった。12月28日夕刊で「勤労統計 全数調査怠る 厚労省 都内は約1/3を抽出 GDPにも影響か」と伝えた。年が明け、1月8日の閣議後に行われた記者会見で、根本厚生労働大臣が不適切な調査が実施されていたことを認めると、あらゆるメディアが一斉に報道するに至る。

 ただ、統計不正が明らかになるきっかけは、昨年12月13日に開かれた総務省統計委員会での西村清彦委員長からの指摘で、同20日には不適切な調査が行われていた事実が厚生労働省の事務方から根本大臣に報告されている。その間、事実関係の確認や対応方針の検討などが行われたのであろうが、毎月勤労統計は12月21日に10月分の確報値が発表されており、そうした不誠実さも批判の対象となった。

使うことが減った毎月勤労統計

記者会見する根本匠厚労相=2019年1月11日、東京・霞が関拡大記者会見する根本匠厚労相=2019年1月11日、東京・霞が関
 実は、以前からエコノミストの間では、定例のサンプルの入れ替えがあった2018年1月分以降、前年同月比の伸びが高過ぎるのではないかという指摘がなされていた。通常、サンプル入れ替えなどによって統計の連続性が失われる場合、ギャップが修正されることが多いが、今回はどういうわけか修正されず、春闘賃上げ率などと比較して違和感があったからだ。

 こうした観点からの指摘は18年8月の統計委員会でもあり、9月の委員会では賃金変化率は「共通事業所」を重視すること、つまり前年と同じ事業所だけを対象とした変化率が望ましいことを確認。サンプル入れ替えの影響についての説明が不十分だとして、適切な対応を厚生労働省に求めている。

 さらに内閣府は11月、毎月勤労統計を用いて作成する雇用者報酬(全雇用者が受け取る賃金の総額、GDP統計を構成する指標の一つ)について、このギャップを「2017年以前の水準を上方修正」するかたちで独自に調整し、その結果として「2018年分の前年同期比が下方修正」された。つまり、内閣府は厚生労働省が発表する数字をそのまま使うことを拒否したわけである。

 筆者自身もこの半年あまり、景気の情勢判断に毎月勤労統計を使うことが少なくなっていた。

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筆者

武田淳

武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト

1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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