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著作権法版サンドボックス制度

神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(6)

柿沼太一 弁護士

グレーゾーンの適法性を確認・確保するには

 このような、いわばグレーゾーンでのビジネスの著作権法上の適法性を確認、あるいは確保しようとすると、現行法上は、①立法的な措置、②司法手続の利用、③契約の締結が主たる方法となります。

 ①の立法的な措置というのは著作権法を含む各種法令の改正のことです。

 ②については、具体的にはビジネスを開始しようとする者が権利者を被告として提起する著作権侵害不存在確認訴訟がその1つの例です。

 有名な例としては、たとえばMYUTA事件判決(平成19年5月25日東京地裁判決)があります。このMYUTA事件というのは簡単に言いますと「ユーザ自身が保有するCD等の楽曲をインターネット経由で事業者のサーバにアップロードし、その後ユーザの携帯電話にダウンロードすることができるサービス」の提供が著作権侵害行為に該当しないかが争われた事件です。当該サービスを提供しようとしている事業者である原告が、JASRACを被告として「この新サービスを提供しても音楽著作権を侵害しないこと」の確認を求めて提訴したという事案です(判決は事業者敗訴)。

 ③はビジネスを展開しようとする事業者が著作権者(あるいは権利団体)と直接交渉を行い個別に許諾を得てビジネス展開をしていくという手法です。

拡大GrinGrin/shutterstock.com

 なお、平成30年著作権法改正によって新設された新第47条の5第1項3号では「電子計算機による情報処理により、新たな知見又は情報を創出し、及びその結果を提供する行為であつて、国民生活の利便性の向上に寄与するものとして政令で定めるもの」については権利制限の対象としています。これは、「政令」という法形式により新たな権利制限対象行為を創設するという意味で非常に興味深い仕組みです(なお、この政令制定の参考にするために文化庁が平成30年7月11日から8月10日までの間、ニーズ募集を行ったところ6団体から合計22件のニーズが寄せられましたが、結局今回は政令の制定には至りませんでした=文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ〈2018年12月〉より)。

 しかし、これら①~③の手法は、時間がかかり硬直的である、あるいは予測可能性に乏しい、あるいは時間をかけても結局許諾が得られないこともある、という限界があります。

「サンドボックス制度」とは

 新技術や新しいビジネスモデルのために、著作権法上新しい権利制限規定を導入しようとすると、賛成派は導入による社会的なインパクトを主張し、反対する人は導入により権利者のビジネスがいかに不利益を被るかを主張します。ただ、結局のところそのどちらが正しいのかと言うことは容易には分かりません。

 そこで「分からないのであれば、一定の条件の下でとりあえずやってみて、その結果を踏まえて再度権利者や事業者で意見を出し合ってみましょうよ」という単純な発想から出て来たのが「著作権法版サンドボックス制度」です。

 これは私のオリジナルな発想ではなく、すでに存在している制度をヒントにしています。それは「規制のサンドボックス制度(Regulatory Sandbox)」です。

 この「規制のサンドボックス制度」とは、平成30年6月に施行された生産性向上特別措置法という法律を根拠法令とする制度でして、AI・IoT・ビッグデータなどの革新的な技術やビジネスモデルを活用した新たな事業について、期間や参加者を限定すること等により、既存の規制の適用を一時的にストップし、新しい技術等の実証実験を行うことができるという制度です。「規制のサンドボックス制度」の詳細についてはこちらのサイトをご参照下さい。

 具体的には、「新技術等(AI・IoT・ビッグデータ・ブロックチェーンなどに関連した技術や手法等)実証計画の作成→主務大臣等に提出→大臣は革新的事業活動評価委員会の意見を聞いた上で認定→計画実施→モニタリング→法改正検討」という流れをとります。

 ちなみに「サンドボックス」とは「砂場」を意味します。小さな子どもが砂場で試行錯誤を繰り返しながら自由に遊ぶように、技術開発のために一定の要件のもと自由に実証実験を行えるという意味が込められています。

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筆者

柿沼太一

柿沼太一(かきぬま・たいち) 弁護士

1997年京都大学法学部卒業。2000年弁護士登録(第52期)。顧問先企業として、AI・ITベンダ、モノづくり中小企業、アニメ・コミック・ゲーム系コンテンツ制作会社、その他ベンチャー多数(IT、WEB、AI、バイオ)を抱える。特に最近は様々なジャンル(医療・製造業等)のAIベンダからの依頼が急激に増加している。AI法務・知財に関するブログ記事を多数執筆しており好評(https://storialaw.jp/author/kakinuma)。また、AIの開発・利用・責任に関するセミナーも多数開催している。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです