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林業界の人手不足と外国人労働者問題

新規就業者の定着のためには、雇用と生活環境の改善が必要だ

田中淳夫 森林ジャーナリスト

 昨秋、出入国管理法の改正が行われ、今年4月から施行されることはよく知られているだろう。新たな在留資格である「特定技能」の1号に5年間の単純労働を認め、より高度な技術を取得した2号なら家族も帯同でき無期限に在留できるなど「事実上の移民法」と指摘された代物だ。ただ、この法改正に期待を寄せる業界は結構多い。

 難民さえも(実質的に)かたくなに拒んできた政府が、急に方向転換をするほど労働現場では人手不足に陥っているのはなぜなのか。その理由には、日本が人口減社会に足を踏み入れたこと、なかでも急速に進む高齢化および少子化がまず根底にある。労働者となるべき若者人口の減少が著しいのだ。加えて3Kと呼ばれるきつい、きたない、危険な職場を忌避する人が増えたこと、そして都市への人口集中が加速していることが大きい。だから地方の体力を必要とする業界ほど人手不足が顕著となっている。

早くから労働力確保に取り組んできた林業界

拡大beeboys/ shutterstock.com
 だが30年以上前から過疎と高齢化、そして若者の流出によって慢性的な労働力の不足に悩まされてきた業界がある。林業界だ。山村はずっと早い段階から現代日本の問題を先取りしてきたため、他の産業よりも早くから労働力確保対策に取り組んできた。

 だから林業界を見れば、現代の労働力不足の問題の本質がわかるのではないか。そして外国人労働者の受け入れの課題を浮き彫りにできるかもしれない。

 林業界は、これまでは地元で求人して縁故採用することが多かったが、それでは十分に集まらなくなってきた。そこで新たな働き手の確保のために都会の住民に向けて求人を行い、住居の準備など生活支援も含めて新規就業者の呼び込みを始めたのは、1990年前後である。将来を見据えた一部の森林組合や林業事業体が、人手を都会に求めたのだ。さらに行政も支援した。山村地域では人口減が激しく地域社会の縮小が課題となっていた。だから林業だけでなく地域人口を増やすため都会から人を呼び込もうとしたのである。

 1996年度に国は「林業労働力の確保の促進に関する法律」を制定し、2001年度から「緑の雇用事業」をスタートさせている。これは林業で働くのに必要な技術の研修やその間の給付金支給などを最長3年間行うもので、素人でも山村に移り住み新たに林業に取り組むハードルを下げる役割を果たした。また林業事業体にも補助金で緑の雇用者向きの仕事を発注する面もあった。これには和歌山県などが先駆的に「緑の雇用」を打ち出し、それを全国に広げたという経緯がある。

 また毎年、各地で「森林の仕事ガイダンス」を開催し、山仕事の内容や受け皿となる事業体を紹介するようになった。おかげで都市部からのUターンやIターンを呼び込むのに大きな力となった。以来、現在に至るまで国や自治体挙げて、林業の労働力確保と若返りを目指して積極的な施策を展開している。

 折しもバブル景気の崩壊後に田舎暮らしがブームとなり、自然の豊かな土地で暮らすことに価値を見いだす人々が増えてきたことも影響しているだろう。また都会のデスクワークより額に汗する仕事を見直す機運もあったように思う。若者の中にも都会に憧れを持たず、オルタナティブな生き方を模索する中、山で働くことに生きがいを見いだす人々が増えたのである。


筆者

田中淳夫

田中淳夫(たなか・あつお) 森林ジャーナリスト

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部卒。日本唯一の森林ジャーナリストとして森林と人間の関わりをテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『森林異変』『森と日本人の1500年』(ともに平凡社新書)のほか、『日本人が知っておきたい森林の新常識』(洋泉社)、『樹木葬という選択』(築地書館)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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