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私は娘に全国学力調査を受けさせない

点数競争が過熱し、NY州では24万人の親が拒否。誰のため、何のための学力調査か

鈴木大裕 教育研究者 土佐町議会議員

全国学力調査の全員参加後に急増したいじめ・不登校

 一つ、思い出すことがある。2016年に広島で行われた教育シンポジウム(参照:『ゼロ・トレランスの今から、学校・教育を問う』(2016年11月19日)ゼロ・トレランスを考える実行委員会)で、会場をどよめかせた大阪のある教員の発言だ。

 大阪府は、府が独自に取り入れた「チャレンジテスト」という学力テストを行っている。ある教室では、テスト前日に成績の悪い生徒が、翌日は学校を休もうかなと言ったら、周りから拍手が起きたというのだ。大阪府のチャレンジテストは、生徒個人だけでなく、個々の中学校にまで偏差値が算出され、それが生徒たちの高校受験に影響を及ぼすのだ。

 今、日本全国の地方自治体が学力テストの点数競争に躍起になっている異常な状況がある。全国学力調査に加え、全体の約70%の都道府県が大阪のように独自の学力テストを実施し、さらには85%の政令指定都市までもが市独自のテストを行っている。

 再任用で今も働く退職教員は、現在の異常な状況をこんな風に説明した。

「むかし教員は、全国一斉学力テストの直前に学校で行う試験対策を『ドーピング』と揶揄したものだが、今はまるで『シャブ漬け』状態だ」

拡大smolaw/shutterstock.com

 全国学力調査が全員参加方式で再開された2013年を境に、子どものいじめ、不登校、校内暴力、そして自殺が増加し続けている(参照:子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会(2018年)『日本における子ども期の貧困化:新自由主義と新国家主義のもとで』)のは単なる偶然とは思えない。

 それを懸念するように、国連子どもの権利委員会は、つい先日発表した日本政府に対する意見書で、「生命、生存および発達に対する権利」に関して、次のように日本政府に勧告している。

「子どもが、社会の競争的性質によって子ども時代および発達を害されることなく子ども時代を享受できることを確保するための措置をとること」(こちら参照)

何のための、誰のための学力調査なのか

 そもそも、全国学力調査はもはや単なる「調査」ではなくなっている。

 規制緩和によって地方自治体と学校別の成績開示が可能になったことで点数競争が起き、政治家が教育委員会に、教育委員会が教員に、そして教員が生徒にプレッシャーを与えるような歪んだ構造が生まれたのだ。

 2013年には、静岡県知事が、全国学力調査で成績の悪い県内の校長名を公表すると脅して世間を騒がせた(実際には上位86の小学校の校長名を発表)。福井県議会が2017年3月に起きた県内の中2男子自殺事件に関して発表した意見書では、「『学力日本一』を維持することが本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教員、生徒双方のストレスの要因となっている」と指摘した。

 最近では、全国学力調査で2年連続で政令指定都市ランキングの最下位だったことに激怒した大阪市長が、全国学力調査の結果を教員のボーナスや校長の給料、そして学校予算の配分に反映させるとして物議を醸した(実際には全国学力調査ではなく、大阪府と大阪市が独自で導入している他の学力テストの結果を校長の賞与と学校予算配分に反映する方向で調整中/参照『日本の公教育の崩壊が、大阪から始まる』)。

 このように「結果がすべて」の教育環境では、教員は目の前の生徒ではなく圧力をかけてくる行政の方を見て教育せざるを得なくなり、学校は塾化が進み、「人を育てる場所」としての存在意義を失ってしまう。

 いったい何のための、誰のための学力調査なのだろうか?

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筆者

鈴木大裕

鈴木大裕(すずき・だいゆう) 教育研究者 土佐町議会議員

16歳で米国に留学。1997年コールゲート大学教育学部卒、1999年スタンフォード大学大学院修了(教育学修士)。日本に帰国し2002年から千葉市の公立中に英語教諭として6年半勤務。2008年に再渡米し、フルブライト奨学生としてコロンビア大学教育大学院博士課程へ。現在は高知県土佐町で教育を通した町おこしに取り組むかたわら、執筆や講演活動を行う。著書に『崩壊するアメリカの公教育:日本への警告』(岩波書店)

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