メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

著作権侵害罪の処罰範囲の限定を

神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(7)

金子敏哉 明治大学准教授

ダウンロードの違法化の拡大と緊急声明

 現在、ダウンロードの違法化の対象範囲の見直し(拡大)が大きく議論されています。2019年1月25日の平成30年度第8回法制・基本問題小委員会2月13日の第53回文化審議会著作権分科会を経て、著作権分科会の報告書が取りまとめられ、2019年の通常国会での提出に向けて準備が進められているようです。

 このような状況の中、2月19日に、高倉成男(明治大学教授)、中山信弘(東京大学名誉教授)、私を呼びかけ人として、知的財産法・情報法の研究者等による共同声明(「『ダウンロード違法化の対象範囲の見直し』に関する緊急声明」及びその補足資料。以下「緊急声明」)を、賛同者の皆様(26日16時時点で105名と2団体)とともに公表いたしました。

 緊急声明の公表後も、出版広報センターによる声明(21日)、アジアインターネット日本連盟による意見(21日)、日本独立作家同盟による緊急声明への賛同(25日)、日本知的財産協会による意見(26日)、そして、日本漫画家協会による声明(27日)等、様々な立場からの意見表明がされています。

 私のダウンロード違法化の拡大に関する問題意識は、基本的に「緊急声明」に示されているものと同じ考えですが、私個人の考えについては後程少しだけ触れます。

 私が今回緊急声明の呼びかけに加わろうと考えた大きな理由としては、ダウンロード違法化の拡大の問題と合わせて、本来は、現行著作権法上の著作権侵害に対する刑事罰の適用範囲(著作権法119条1項)が広範に過ぎることの問題が論じられるべき、と考えていることがあります。

 そこで以下では、この著作権法119条1項の改正について提案をさせていただきます。

 なお当然ながら、私は緊急声明の呼びかけ人や賛同者を代表する立場ではありません。このコラムで述べる見解は、私の個人的な考えであって、緊急声明の呼びかけ人・賛同者の共通の理解を示すものではない点にご留意頂きたいと思います。

拡大Olivier Le Moal/shutterstock.com

現行著作権法119条1項による処罰範囲

 現行著作権法119条1項は、故意に著作権を侵害する行為(私的複製等を除く)を、広く刑事罰(10年以下の懲役and/or1000万円以下の罰金)の適用対象とすることを定めています。

 そしてここでいう故意とは、刑法の一般的な理解に照らしますと、違法であるとの評価の認識を必ずしも要しないと解されており、例えば民事訴訟で最高裁まで行為が継続されながら侵害の成否が争われるような侵害判断が微妙な事案についても、理論上は、刑事罰が科されうることとなります。

非親告罪化の範囲の限定の意義

 平成28年改正以前、著作権侵害罪(著作権法119条1項)は全て親告罪(123条1項)でありました。親告罪については、被害者(権利者)が告訴しない限り、検察官は被疑者を起訴することができません。

 しかしTPP協定により、海賊版行為等につき非親告罪化が求められた際には、「黙認」を基礎とする二次創作文化への悪影響がマンガ家の先生方や多くの有識者から強く懸念されました。

 最終的にはこれらの懸念を踏まえ、TPP対応のための平成28年改正(TPP11の発効により施行)による著作権法123条2項・3項では、非親告罪化の対象となる範囲を海賊版対策に必要な範囲に限定し、二次創作に関しては親告罪のままとすることを明らかにしています。

 このTPPへの対応において、政府や国家においても、二次創作に対する配慮がされた、ということ自体は大きな意義があることです。またこれらの規定は、著作権侵害行為一般の中から、刑事手続を重点的に活用して抑止すべき「海賊版」の流通行為を条文の形で明示した点でも意義を有するものであります。

 123条2項を参考に、本コラムにおける「海賊版」とは、著作権を侵害する行為一般ではなく、原作のまま行われる侵害行為(特に複製物の公衆への譲渡または公衆送信)で、著作権者の利益を不当に害するもの、を意味するものとしています。

親告罪のもとでの萎縮効果 その実例:ハイスコアガール事件

 しかしながら、非親告罪化の範囲を限定するだけで、著作権侵害に係る刑事罰による委縮効果の問題が全て解消されたかというと、そうではありません。

 親告罪のもとでも、侵害か否かが微妙な、法解釈が分かれるような事案について、権利者による告訴がされれば、強制的な刑事手続が用いられる、刑事罰が科されうるということ自体が、表現活動や著作物の利用に重大な萎縮を及ぼしかねないと思います。

 そして、このような危惧が現実となったのが、ハイスコアガール事件(アーケードゲームを題材とするマンガにおいてゲーム画面・キャラクターの描写が著作権侵害にあたるとして、ゲームの著作権者による刑事告訴がされ、出版社・漫画家に対する強制捜査が行われた事件。ハイスコアガール事件を契機とした議論については明治大学知的財産法政策研究所で開催したシンポジウムの記録をご参照ください)であります。

 ハイスコアガール事件自体は和解で円満に解決しましたが、このような事案について、刑事告訴がされ、強制捜査が行われたという事実は重く受け止めなければならないと思います。

 そこで私は、著作権法119条1項を、著作権侵害行為のうち刑事罰が適用されるべき場合自体を、限定すべきと考えるものです。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

金子敏哉

金子敏哉(かねこ・としや) 明治大学准教授

2002年東京大学法学部卒業、2009年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。2009年4月より明治大学法学部専任講師、2014年10月より明治大学法学部准教授。2018年4月よりハーバードロースクール東アジア法研究所客員研究員。主な著作に『しなやかな著作権制度に向けて―コンテンツと著作権法の役割』(中山信弘との共編。2017年、信山社)、『知的財産法(LEGAL QUEST) 』(愛知靖之・ 前田健・青木大也との共著、2018年、有斐閣)、「二次創作と著作権法」法学教室449号(2018年)ほか。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです