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強すぎる「著作者人格権」の大幅制限を

神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(最終回)/審査結果発表!

平井佑希  弁護士・弁理士

不思議な制度「著作者人格権」 

 オーバーラップしたきり帰ってこないサイドバックもいますから、ポジショニングをわきまえることはとても大事です。増改築を繰り返してきた著作権法において、ポジショニングがおかしいと感じることは少なくないのですが、今回その代表選手として挙げさせていただいたのが「著作者人格権」です。

 著作権法は財産的な権利である著作権のほか、人格的な権利として、公表権(18条)、氏名表示権(19条)及び同一性保持権(20条)を規定しています。また著作権法は、法人が著作者になる法人著作制度を持っていますので、法人が著作者人格権を持つこともあり得ます。

 一方、特許法には直接的には人格権を規定されていません。

 パリ条約には、発明者には発明者として記載される権利があると規定されていますし、日本の過去の裁判例でも同様の権利(発明者名誉権などと言われます。)が認められていますので、特許法の世界には「人格権」がないのかと言われると、そうではありません。ただ、著作権法の法人著作制度と異なり、特許法の職務発明制度では、発明者が自然人であるという原則(ドグマ?)は維持されていますので、少なくとも、法人が発明者名誉権を持つことはありません。

 こういった法制度の違いもあって、特許法から知財法の分野に入った私にとっては、著作者人格権って不思議な制度だなあというのが最初の印象でした。

 そして、今でもその違和感のようなものは、あまり払拭されていません。

お金じゃなく人格の問題じゃなかったの?

 ただ一方で、技術的・機能的な「発明」を保護する特許に比べて、創作的・叙述的な「表現」を保護する著作権のほうが、それを生み出した人の人格的な利益を守るべきであるという点については、私もベタな感覚として理解できます。

 頑固そうな高名な陶芸家が、焼きあげたばかりの自分の作品を、「こんな皿はダメじゃ!」などと叫びながら即座に叩き割るシーンなどを思い浮かべると、「おお! これぞ芸術! これぞ著作者人格権!」と喝采を送りたくなります。

 しかし、著作権実務に携わっていて、こういった感じで著作者人格権が「これぞ!」という働きをしているシーンに出くわすことは、残念ながらあまり多くはありません。

 翻案権侵害が認められた事案で、同一性保持権侵害もありますよね、と損害額が上乗せされるシーン(実務上よくあります)などは、「これぞ人格権!」どころか、むしろ「コレジャナイ」感すら漂います。

 翻案権侵害でも同一性保持権侵害でも、結局は権利侵害があるということになると、法的効果として変わってくるのは損害の額だけということにもなりかねません。人格権と言いつつ、結局損害額の多寡にだけしか影響しないということになると、お金の問題じゃなくて、人格の問題じゃなかったのか!?などと思わざるを得ません。

拡大Faberr Ink/shutterstock.com

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筆者

平井佑希

平井佑希 (ひらい・ゆうき) 弁護士・弁理士

北海道大学農学部卒業、同大学院農学研究科修了、横浜国立大学法科大学院修了。美勢法律特許事務所から事務所合併により、ライツ法律特許事務所。横浜国立大学法科大学院非常勤講師(知的財産法)。 主な著書は「シートカッター事件最高裁判決」AIPPI Vol.63 No.4(日本国際知的財産保護協会、2018)「ゴルフシャフト・デザイン事件」著作権法研究44(有斐閣、2018)「海賊版サイトをめぐる法的論点の整理―「漫画村」の出現を契機として」ジュリストNo.1523(有斐閣、2018)「育成者権(しいたけ)侵害事件判決」知財ぷりずむ No.192(経済産業調査会、2018)「本尊写真事件」コピライト Vol.58 No.693(公益社団法人著作権情報センター、2019)