メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

クールビズは失敗だ!節電より再生エネ拡大を!

我慢して節電するよりも「クリーンなエネルギーがほしい」と訴えよう

山口智久 朝日新聞オピニオン編集長代理

Oleksiy Mark/shutterstock.com

我慢に頼る温暖化対策には限界がある

 「クールビズは失敗だったかもしれない」

 ある環境省幹部が、こう話すのを聞いて驚いたことがある。

 京都議定書が発効された2005年、日本の目玉の温暖化対策として当時の小池百合子環境相が「クールビズ」を打ち出した。軽装にして、冷房の温度を高めに設定してエネルギーを節約しようという呼びかけだ。

 オフィス勤務の男性は、夏でもネクタイを締めてスーツ姿で仕事するのが当たり前だったのが一変し、クールビズを機に服装はかなり自由になった。それまで冷房が効きすぎて冷え性の女性たちが夏でもカーディガンをはおり、ひざにブランケットをかけることも減った。

 会社だけでなく、温暖化対策への国民の意識を高めた。照明をこまめに消したり、プラグを抜いたりする家庭が増えた。

 それを環境省幹部はなぜ「失敗」と言うのか。

 クールビズによって「温暖化対策=がまん」という意識が植え付けられてしまったのではないか、と解説する。地球温暖化防止という「正しいこと」を実現するには、自らの欲望を抑えなければならない、という倫理、あるいはモラルが確立されてしまった。

 「温暖化対策」と聞くと、「正しいこと」をした時の満足感を得られるかもしれないが、「楽しい」「わくわくする」という感情にはなる人は少ないのではないか。

 がまんに頼る温暖化対策には限界がある。それよりも、再生可能エネルギーや電気自動車など革新的な技術やサービスを開発し、市場を通じて普及させる方が効果は大きい。新しい技術やサービスを考えるのは、がまんするよりは楽しいし、創造的だ。

 こうした時、政府の役割は国民にがまんを呼びかけるよりは、市場が低炭素社会へ向かうように、適切な規制やインセンティブを与えることだろう。

 想像してみてほしい。電気が100%再生可能エネルギーから作られる社会。そうなれば罪悪感なく電気を使えるようになる。

「クールビズ」によって「温暖化対策=がまん=正しい」という倫理ができあがった結果、個人が政府や企業に対策を求めようとすると、まずはその個人がきちんと温暖化対策に取り組んでいなければ、その資格がないという考えが広がったように思う。

 温暖化対策を話し合う政府主催のある会議を取材したとき、環境NGO代表がタクシーで帰って行くのを見たある参加者が「俺たちは地下鉄だというのに……」と文句を言っていたのを耳にしたことがある。

 15歳のスウェーデン人、グレタ・トゥーンベリさんが始めた地球温暖化対策を求める運動を日本で呼びかけた小出愛菜さん(参照『15歳スウェーデン少女の運動が日本にも広がった』)も、日頃から節電を心がけている。「人に行動を求める以上、自分が取り組んでいなければ説得力がない」

 「もったいない」と思うことは大切だが、このように考える必要はないと思う。クールビズは、声をあげようとする若者に心理的なプレッシャーを与える社会をつくってしまった。

各家庭が冷房に使うエネルギーは2.3%

 ところで、冷房の設定温度を抑えることが、どれくらいの温暖化対策になるのか。

 職場ではなく家庭での話だが、「エネルギー白書」によれば、各家庭が使うエネルギーのうち、冷房に使われるのは2.3%に過ぎない。

エネルギー白書から

 となると、クールビズは温暖化対策としての効果が限定的なうえ、さらに誤った倫理を国民に植え付けたとしたら「失敗」と判定されても仕方がない。

 ついでに最近の不正統計問題にあやかって、エネルギー白書の統計でいつも疑問に思っていることを指摘しておきたい。

 エネルギー消費の推移を示すグラフで、いつも第一次オイルショックが起きた1973年度と比べている。

エネルギー白書から

 全体では1.2倍増えたが、産業部門は減らしたのに対し、家庭部門や運輸部門は増えているという見せ方をしている。これを見ると、産業界は省エネの努力をしてきたのに、家庭では節約せずに便利な家電製品を増やして豊かさを享受しているのではないか、と罪悪感にかられる。

 あるいは、産業界を指導してきた経済産業省(旧通商産業省)の成果を強調し、国民啓発担当(環境省)、運輸部門担当(国土交通省)の対策が遅れていることをアピールしているようだ。

 ところが、エネルギー消費量が前年度に比べてどう変化したかを計算すると、以下のようになる。

 確かに、1970年代は産業部門が他部門に比べて大きく減らしている。ところが2000年以降は、各部門に差はあまり見られない。

若い人たちは「クリーンなエネルギーがほしい!」と訴えよう

 もはや温暖化対策は、すべての部門が率先して取り組まなければならない。

・・・ログインして読む
(残り:約841文字/本文:約2886文字)