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解決には統計部署の専門性と独立性向上が必要だ

統計のメーカー側の経験から考える「統計不正」問題

平田英明 法政大学経営学部教授

拡大衆院予算委で、国民民主党の原口一博氏の質問に答弁する総務省統計委員会の西村清彦委員長=2019年2月28日

 厚生労働省の毎月勤労統計の問題が一向に収束しない。野党は森友・加計問題と同じ構図ととらえて政権の陰謀説を考えているようだ。だが、それは統計作成部署に対する買いかぶりだ。筆者は、現在は大学教員として統計のユーザー側の者であるが、日本銀行で企業物価統計の企画という統計のメーカー側も経験している。その経験を踏まえ、本稿では、政府の統計の作成プロセスを説明しながら、問題の所在について明らかにしていきたい(注1)。

注1 本稿は「統計不正問題の深層(5)」(日本記者クラブ、2019年3月14日)の会見内容のダイジェストである。また、平田英明「私見卓見:統計、複数の目でチェックを」(日本経済新聞、2019年2月26日)平田英明「毎月勤労統計調査問題についての経済統計メーカーの視点~統計、複数の目で点検を」(東京財団政策研究所 政策データウォッチ(6)、2019年2月19日)も併せて参照されたい。

 政府の統計は、公的統計と呼ばれる。公的統計とは、総務省によれば「“行政利用”だけではなく、社会全体で利用される情報基盤」である。毎月勤労統計を例に取ると、失業給付の額の算定、労働災害の休業補償、労災保険の保険給付、平均賃金の算定、各種審議会等の審議資料、労働時間短縮の推進、労働経済の分析、が厚労省内部での“行政利用”用途となっている(注2)。つまり、“行政利用”という場合、一般にイメージされる政府が国民に提供するサービスに関連する部分が主たる使われ方であり、経済分析の用途は相対的にマイナーな使われ方と見なされているようだ。だが、いうまでもなく、今回の問題によって生じた狭義の行政利用関連の社会的コスト(例:失業給付等の過小給付)と同様に、経済政策の企画立案に生じた歪みという社会的コストも非常に大きなものだ。

注2 この順番は厚労省による説明順である。詳細は、厚生労働省「毎月勤労統計調査結果の主な利用状況」を参照。


筆者

平田英明

平田英明(ひらた・ひであき) 法政大学経営学部教授

1974年東京都生まれ。96年慶応義塾大学経済学部卒業、同年日本銀行入行。調査統計局、金融市場局でエコノミストとして勤務。2005年法政大学経営学部専任講師、12年から現職。IMF(国際通貨基金)コンサルタント、日本経済研究センター研究員、ハーバード大学客員研究員などを務める。経済学博士(米ブランダイス大学大学院)。専門分野は国際マクロ経済、金融。近著は”Differentiated Use of Small Business Credit Scoring by Relationship Lenders and Transactional Lenders.” Journal of Banking and Finance、”Accounting for the economic relationship between Japan and the Asian Tigers.” Journal of the Japanese and International Economies、”Tax reform in Japan: Is it welfare-enhancing?” Japan and the World Economy、”Global House Price Fluctuations: Synchronization and Determinants.” NBER International Seminar on Macroeconomics 2012など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです