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解決には統計部署の専門性と独立性向上が必要だ

統計のメーカー側の経験から考える「統計不正」問題

平田英明 法政大学経営学部教授

政府の統計の作られ方

 ところで、政府の統計はどのように作られているのだろうか。まずは、①生データの取得が行われる。これは基本的に霞が関の官庁が直接に行うのではなく、都道府県等を経由して調査員の訪問調査、郵送調査、オンライン調査などによって行われる。霞が関では、これらのデータの精査を行った上で、何らかの重み(ウエイト)をつけて②集計をする。これらの作業①、②は決められたルールに基づいて行われる。ユーザーは、そのルールを前提に統計数値を見る。例えば、エコノミストは、この統計には何が含まれ、何が入っていない、ということを認識した上で分析をしている。ルールが違えば、自ずと分析の精度も落ちてしまう。

 さて、定例作業である①生データ取得と②集計作業に加え、これらの方法論を決める③企画も霞が関の担当だ。企画は、経験、知識、バランスの求められる難しい仕事であり、中長期的な取り組みとなる傾向がある。例えば、ウエイトの算出、業務効率化(例:サンプリング手法についての検討)、経済構造変化への対応(例:新業態の取り込み)、統計システムの変更(例:データ処理システムのアップグレード)、国際基準への対応といった多岐にわたる内容を含むためだ。

霞が関内部の構造的な問題

 実は、各種の統計を作る上で様々な共通作業が出てくるため、各府省に分散している統計作成部署を統合するべきだという意見は従来から存在する。統計作成のノウハウを共有し、部署同士の統合効果を働かせようというアイデアだ。筆者も基本的には賛成であるが、それだけで問題が解決するとは考えていない。単に統計作成部署を統合しただけでは、統合効果はほとんどなく、場合によってはかえってマイナスにすらなるだろう。

 なぜだろうか。それは、今回の一連の問題が②の集計作業と③の企画の部分、すなわち霞が関内部で生じた問題だからだ。世の中の多くの業務は一般的に性善説を前提とする。ことさら統計にとっては、性善説は大前提であり、最も基本の部分だ。しかしながら、今回の一件で大前提が崩れた以上、その部分にメスを入れない限り、問題は解決しない。そして、性善説を前提とできない以上、内部で自浄的に問題を解決していくことは難しい。このような構造問題を内包する組織を集めただけでは、どうしても統合効果は見込めない。


筆者

平田英明

平田英明(ひらた・ひであき) 法政大学経営学部教授

1974年東京都生まれ。96年慶応義塾大学経済学部卒業、同年日本銀行入行。調査統計局、金融市場局でエコノミストとして勤務。2005年法政大学経営学部専任講師、12年から現職。IMF(国際通貨基金)コンサルタント、日本経済研究センター研究員、ハーバード大学客員研究員などを務める。経済学博士(米ブランダイス大学大学院)。専門分野は国際マクロ経済、金融。近著は”Differentiated Use of Small Business Credit Scoring by Relationship Lenders and Transactional Lenders.” Journal of Banking and Finance、”Accounting for the economic relationship between Japan and the Asian Tigers.” Journal of the Japanese and International Economies、”Tax reform in Japan: Is it welfare-enhancing?” Japan and the World Economy、”Global House Price Fluctuations: Synchronization and Determinants.” NBER International Seminar on Macroeconomics 2012など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです