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ブレグジット、大山鳴動して「EU残留」か

朝三暮四の見直し合意案は英国下院でまたも否決。今後の行方は…

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

英国のEU離脱条件を巡り、譲歩を引き出すため、ブリュッセルのEU本部を訪れたメイ首相(左)とユンケル欧州委員長=2019年2月20日

英下院、二度目の否決

 3月11日夜、イギリスのメイ首相とユンケル欧州委員長との間で、イギリス議会が反対してきた離脱協定案についての見直しが合意された。この見直し合意案についても、イギリス議会は、賛成242、反対391の反対多数で否決した。

 メイ首相が提案した協定案を下院が否決したのは1月に続いて2度目となる。この経緯と理由について、簡単に振り返ってみよう。

 イギリス議会で問題とされたのは、協定案のバックストップ(イギリスとEUが2020年末までに合意できなかった場合のセイフティネット)措置である。これによると、英領北アイルランドとアイルランドとの厳格な国境管理を避けるための対策が見つからないまでの間、これまで通りイギリス全土を関税同盟(イギリスと他のEU諸国と間の貿易について関税はゼロとし、日本など他の国に対してイギリスはEUと同様の関税(自動車だと10%で統一)を課す)に残すとともに、経済面ではEU全体としての単一(共通)市場を維持するため、北アイルランドについてはEUと同じ規則、イギリス本土にはEUと同様の規則を適用することとしている。

 これに対し、関税を決める権限はEUにありイギリスにはないのでイギリスは関税を引き下げるための独自の自由貿易協定交渉を諸外国と結べなくなる、EUから離脱したイギリスには決定権限がないEUの規則に将来も縛られることになる、同じイギリスなのに北アイルランドとイギリス本土とで経済的な制度で差別的な取り扱いが行われることになる――といった批判が上がり、当初の協定案は1月イギリス議会によって歴史的な大差で否決されている。

 こうした批判を避けるため、見直し合意では、イギリスはバックストップに恒久的に拘束されるものではないという方針を確認し、バックストップを発動させないため、2020年末までに厳格な国境管理の回避策を見つけるよう、英・EU双方が努力することとされた。

steny02/shutterstock.com

朝三暮四の見直し合意案

 しかし、今回の見直し合意は、これまでの協定案に書かれていたことを、表現を変えて記述しただけである。

 そもそもバックストップとは、2020年末までに双方が交渉し、妥結できなかった場合に、適用されるのであり、交渉がまとまれば適用されないものである。見直し合意が、バックストップを発動させないよう2020年末までに双方が交渉して厳格な国境管理の回避策を見つけるよう努力すると記述していることは、表から書いていたことを裏から書き直しただけと言える。そこまで評価するのは酷だとしても、英・EU双方とも厳格な国境管理を回避したい以上、当然のことを記述したに過ぎない。

 見直し合意の報道を読んで、中国の朝三暮四という話を思い出した。宋の狙公(そこう)が、飼っているサルにトチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つやると言うと少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいへん喜んだという「荘子」に出ている話である。

 ユンケル欧州委員長以下のEUは、協定案の見直しには応じられないという立場だったので、見直し合意は単にメイ首相に助け船を出しただけのものに過ぎない。協定案の表面を化粧直ししただけのコスメチックなもので、協定案の中身・内容は一切いじっていない。

 イギリス議会の議員たちは、これにだまされるようなサルではなかった。12日に新合意が大差で否決されたのも当然である。

gmstockstudio/shutterstock.com

「離脱」と「国境管理なし」は両立しない

 この後の手続きとしては、13日合意無き離脱(ノーディール・ブレグジット)の是非が採決され、これも否決されれば14日離脱日の延期の是非が採決される。これが否決されればノーディール・ブレグジットになるが、議員たちはノーディール・ブレグジットは避けたいという気持ちで一致しているので、離脱の延期が可決されることになろう。

 その場合、イギリス政府はEUと、延期が認められるかどうか、認められるならその期間をどの程度とするかなどについて協議を行うことになる。

 では、延期をして何をするのだろうか?

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