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家事の時短化、環境負荷の増大につながるリスクも

余暇の拡大でエネルギー消費量が増加してしまう「時間リバウンド効果」

溝渕健一 松山大学経済学部教授

Andrey_Popov/Shutterstock.com

家事時間を減らす時短サービス

 「シャウエッセンは手のひらを返します」

 熱湯でボイルすると、パリッとジューシーな食感が味わえるウィンナーソーセージ「シャウエッセン」。長年、家庭の食卓やお弁当などで活躍してきたこのソーセージは、2019年2月、忙しい世の中の時短ニーズに合わせる形で、突如、これまで禁止していたレンジ調理を解禁するという「手のひら返し」を行った。

 シャウエッセンのこの変更は、なべにお湯を沸かす時間に加えて、茹でることに費やしてきた調理時間(およそ10分程度)を、わずか数十秒に短縮するため、忙しい朝に、ちょっとした時間的なゆとりをもたらすことが期待される。近年、共働き世帯の増加から、家庭内での家事や育児に充てる時間がますます限られてきている。そのため、家庭内での家事時間を減らす時短ニーズの高まりにより、多くの時短サービスや製品が生み出され、人々を家事から解放し、自由に使える「時間」が作り出せるような世の中になってきた。

 時短サービスとして、例えば、アマゾンや楽天のようなインターネット通販、生鮮食品を宅配してくれるネットスーパーの利用率は急激に伸びている。これらのサービスは、実際に店舗に行かなくても買い物ができるため、その分の時間が短縮される。総務省の家計消費状況調査によると、このようなネットショッピングの利用率は、2002年には5.3%であったが、2018年には39.2%と、7.4倍に急増している。また、時短製品でも、米iRobot社の自動掃除機「ルンバ」は、2002年に日本で発売以来、約300万台売り上げ、食後の汚れた食器を自動で洗ってくれる「食洗機」の保有率も、2004年の14.9%から、2014年には24.7%と普及が進んできている(総務省「全国消費実態調査」より)。

 このような技術やサービスが普及すれば、家庭内における家事の時間は短縮され、余った時間を、趣味や休養などの余暇や、子供と過ごす時間(育児)などに使えるようになると予想される。総務省の社会生活基本調査における、家庭内での1日の行動時間(25〜64歳の男女の平均値)を見ても、2006年と2016年の10年間で、「家事」の時間は短くなっている一方で、趣味や休養などの「余暇」や、「育児」に使われる時間は長くなっている。そのため、今後、時短技術が普及してくれば、自由に過ごせる時間や、子供との時間などが増えることで、人々の生活は、より豊かなものになっていくと期待される。

「時間リバウンド効果」

 しかし、エネルギー経済学の分野では、こういった時短技術やサービスの普及が進むと、エネルギー消費量が増加してしまう可能性があることが指摘されている。これは「時間リバウンド効果」と呼ばれる現象である。

 前述の自動掃除機「ルンバ」を導入する例で、この現象を説明してみる。「ルンバ」を導入することで、これまで人の手で行っていた掃除の時間がそのまま短縮される。この短縮により、新しく生み出された自由に使える時間が、もし、テレビを見たり、ゲームをしたりする時間に使われたとする。このテレビやゲームは電力を消費する行動であり、また、「ルンバ」を使用しなかったら、本来起こり得なかった追加的な行動でもある。そのため、もしこのような追加的な行動が起これば、「ルンバ」購入前よりも電気使用量が増加してしまうのである。

 もちろん、時短サービスや製品を導入したからといって、必ずしもエネルギー消費量が増えるとは限らない。余った時間を、読書やスポーツ(eスポーツなどは除く)などのように、エネルギー消費を伴わない行動に使った場合、

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