ボーイング機の墜落を招いた自動操縦装置
抜本的な設計変更か、生産中止か。ボーイング社に打撃
木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

ボーイング737MAXシリーズの組立て風景=同社HPより
エチオピア航空のボーイング737MAX8が3月10日、墜落した。昨年10月にもインドネシアで同様の事故を起こしており、新型機の初期故障というにはあまりに重大な事態である。世界の航空会社が相次いで運航停止に踏み切り、ボーイングを擁護していた米連邦航空局(FAA)も13日、ついに運航停止を決めた。
MAX8は、機体の失速を防ぐためのMCAS(Maneuvering Characteristics Augmentation System、操縦特性補助システム)という自動操縦技術を初めて導入している。インドネシアの事故はそのMCASが原因であり、エチオピアの事故も墜落の状況がよく似ていることから、同じ原因が疑われている。一体何が起きたのだろうか。
パイロットと自動操縦装置(MCAS)が20数回も格闘
昨年10月29日にインドネシアのLCC、ライオン・エアで起きた事故(189名死亡)をまず考察したい。この事故ではフライトレコーダーの解析が進み、事故の経過と原因が明確になっているからだ。
離陸から間もなく、機首の角度が上がりすぎて失速する危険があることを知らせる警報が鳴った。同時にMCASが作動を始め、機体は上昇中にも関わらず、機首を下げ始めた。

ボーイング737MAXに装備されたMCASの仕組み図。機体後方にある水平尾翼を動かすと、尾翼部を上げて機首を下げる力が働く=同社HPより
MCASは機体後方にある水平尾翼を図のように動かす。すると、図の右上にあるように、尾翼を押し上げる力が生まれ、その反動で機首には押し下げる力が働く。
しかし、事故機のパイロットはMCASの知識がなく、順調に上昇中の機体がなぜ機首を下げようとするのか理解できない。このままでは機首が下がり続けて墜落すると考え、操縦かんを引いて機首上げを何度も試みるが、機首は上がらなかった。
必死に操縦かんを引くパイロットと、機首を下げようとするMCASのせめぎ合いが20数回も繰り返され、最後はMCASが勝って離陸から11分後に墜落した。
MCASを始動させるシグナルは、機首の角度を調べる2個のセンサー(AoA=迎え角センサー)から出る。2個のうち1個は正常だったが、残る1個が故障して異常に高い角度を示していた。MCASは高い角度のほうに反応するので、機首が上がりすぎていると判断し、強制的に下げようとしたのである。