[44]「日本型同一労働同一賃金」のふしぎ
基本給の格差にふれない判決続く、「同一身分同一賃金」脱出へ改善を
竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授
「同一」を量れない「同一労働同一賃金」
もう一つの問題点は、「同一労働」を量る客観的物差しが、「ガイドライン」には欠けていることだ。賞与は、本給の2カ月分に17万円あまり上乗せされている正社員に対し、原告らは12万円しか支給されない。これについて判決文は、「有為な人材の獲得・定着」のためという会社側の主張に一定の合理性があると述べている。販売員は売店を本業とする会社の柱のはずだ。にもかかわらず、契約社員だから「有為」でないというのは、会社側の偏見といわれてもしかたない。また、経費削減のため売店をコンビニへ転換しつつあり「支払い可能な賃金総額という配分」に制約があることも挙げられた。「労働の対価」としての賃金というより、経費節減のしわ寄せをされても仕方ない「身分」にあることが賃金の根拠とされてしまっている。
今回注目された「退職金」は、「会社の裁量」とはかかわりなく正社員の勤続に応じて支給され、契約社員に退職金を全く払わなかったことに合理性はないとされた。これは前進だ。だが問題は「正社員の4分の1」とされた点だ。原告らは正社員と同じく65歳定年制で勤続が前提とされ、1年契約ではあるがこれを更新して10年前後の長期間働いてきた人もいる。それがなぜ「4分の1」なのかの説明はない。
一方、住宅手当は、生活費補助という本来の趣旨から差をつける合理性はないとして認められ、10年勤続正社員に3万円認められている褒賞も、「勤続した人」という趣旨では契約社員も同じ、として認められた。
ILOなどの国際基準では、賃金差別の是正のためには職務を分析してそれぞれを「スキル」「責任」「負担度」「労働環境」について重さを量って点数化し、比較する手法が推奨されている。「やっている仕事(やるかもしれない仕事ではない)」をできるだけ客観化する装置づくりによって、差別意識が忍び込むことを防ぐためだ。また、それがあるからこそ、まったく同一でない仕事についても「違いに応じた処遇改善」が確保できる。「日本型同一労働同一賃金」はそうした装置を欠いている。そのため、今回の判決のように、基本給、賞与、退職金の格差の妥当性は、会社の裁量や、裁判官の目の子勘定で決めざるをえない。一方、明確な基準で一律に決められた手当関係の格差是正は比較的認められやすくなり、それがこの間の訴訟での「非正規の前進」につながったと考えられる。このような、基本給の格差にはふれない判決が続く中、ある勉強会では、経営側の弁護士から「基本給に賃金を集めておけば非正社員への人件費は抑制できるのでは」という声まで出たという。