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韓国 貧困に苦しむ高齢者たち

貧困の中で必死に生き抜くお年寄りたち。文在寅政権は急速な高齢化にどう向き合うのか

稲田清英 朝日新聞オピニオン編集部次長

貧困や孤独など高齢者の暮らしの厳しさが社会問題になっている韓国。老後の安心は人々の切実な願いだ=2017年4月、ソウル

ついに1を割り込んだ出生率

 0.98。

 韓国の2018年の合計特殊出生率(暫定集計)だ。1月25日に配信した記事「出生率1.05 正念場の韓国」で「1を割り込む可能性も指摘されている」と触れていたが、予想通りというべきか、1を割り込む形になった。

 韓国政府によると、出生率が0.98というのは、韓国でこの統計が作られるようになった1970年以降で最低だという。1を割り込むのは今回が初めて、でもある。

 7~9月までの四半期ごとの統計からある程度予想されていたことではあったが、同様に少子化が定着した日本と比べても大きく下回る水準だ。世界的にも異例の事態と言えそうだ。

 2000年代半ば以降、韓国では政府があの手この手で少子化対策を進めてきた。それでも少子化傾向に歯止めがかかるどころか、むしろますます深刻さを増している。そんな現状を、はっきりと数字が物語っている。

 少子高齢化は今後も、急速に進んでいきそうだ。

 韓国統計庁は3月28日、2017~67年の人口推計を発表した。そこで示された「未来予想図」によると、出生率は、2021年に0.86まで下がる。2029年からは人口がマイナスに転じる。

 韓国の高齢化率は2019年で14.8%。日本は28.1%(2018年10月)だから、まだまだ韓国の方が大きく下回っている。だがその進むペースはかつての日本よりはるかに速く、今後も加速するとみられている。人口推計によると、2040年には33.9%、2060年には43.9%、2065年には46.1%まで高まる見通しで、2065年時点での高齢化率はOECD(経済協力開発機構)でも最高水準になるという。

 次代の経済・社会の担い手の縮小と高齢化がこうして今後も加速していけば、韓国社会は果たして「持続可能」なのだろうか。「少子高齢化先進国」たる日本からみても、韓国がこの問題にどう向き合うかは示唆に富むテーマと言える。

 ということで、前置きが長くなった。少子高齢化のうち、1月25日配信の記事では少子化に焦点をあてたので、今回は韓国の高齢化、高齢社会の現状について考察してみたい。

急速な経済成長の中で後手に回った高齢者対策

 急速な高齢化の進展に加え、韓国の高齢社会には一つ、際だった特徴がみられる。高齢者の暮らしの厳しさだ。十分な所得もなく、貧困の中で必死に生き抜くお年寄りが多い。

 所得が低く生活が厳しい人の割合を示す指標の一つである「相対的貧困率」。韓国政府の資料などによると、韓国の高齢者の相対的貧困率は46.5%(2016年)。これは、OECD(経済協力開発機構)加盟国平均のほぼ4倍の水準だという。

 最大の原因は、国民年金をはじめとする公的な年金制度の歴史が浅く、給付も不十分なため、老後の暮らしを支えるのに十分な所得を得られないでいる高齢者が多いことだ。

 韓国で国民年金の制度が導入されたのは、ソウル五輪と同じ年の1988年だった。国民の多くをカバーする「皆年金」が実現したのは1990年代末で、まだ20年ほどの歴史しかない。このため、年金を十分に受け取れていない高齢者が多い。

 こうしたなか、朴槿恵前政権時代の2014年には、所得額などを考慮して一定の条件にあてはまる高齢者に広く支給する「基礎年金」制度が導入された。それでも標準的な支給額は当初より引き上げられたとはいえ、月25万ウォン(約2万5千円、2018年9月~2019年3月)にとどまる。2014年に47.4%だった相対的貧困率は2015年に44.8%に少し下がったものの、2016年にはまた上昇しており、状況を大きく改善するような結果にはなっていない。

 「圧縮成長」と呼ばれるような急速な経済成長を遂げた韓国ではあるが、その成長至上の歩みの過程で、後手に回ったものも多かった。典型的な一つが、暮らしのセーフティーネット(安全網)だ。貧困に苦しむ現在の高齢者の多くは、いわばその犠牲者ともいえる。

ソウル市内の広場に集まった高齢者ら。囲碁や将棋を楽しむほか、特に何をするでもなく過ごす人も少なくない=2017年4月

「年を取っても格差社会」

 もし高齢者の所得が十分になくても、子や孫など支えることができる存在が多く、かつ彼ら彼女らの暮らしにも余裕があれば、まだ状況は大きく異なる。ただ、韓国の現状は、そうもいかなくなっている。

 現在の高齢者の子どもの世代にとっても、自らの暮らしそのものに余裕がない。不安定な雇用、暮らしを圧迫する住宅費や教育費……。親の世話どころか、自分の暮らしを保っていくことに必死、という人も多いのだ。

 かつてなら「年をとった親の世話は子どもが当然すべきもの」といった価値観があったが、今や必ずしもそう言えなくなった。

 こうした中、暮らしの糧を得るため、ゴミ収集などの仕事を

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