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ゴーンが満喫した役員報酬開示の後進国ニッポン

「懐の中を見せたくない」日本の経営者たち

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

日産は1ページ、米P&Gは50ページ

 米国では、すべての取締役、およびCEO、CFO、報酬上位3人の報酬が個別に開示されるだけでなく、報酬プログラムの目的や設計思想、固定給や業績連動報酬など報酬の構成要素の算定方法、即時に払われるものと長期的に支払われるものとの区分、ストック・オプションなどエクイティ報酬の決定方法、個人の業績を報酬に反映する仕組みなども開示の対象になる。

 破綻したリーマン・ブラザーズのリチャード・ファルドCEOが7年間に500億円近い報酬を受け取ったり、公的支援を受けた金融機関のトップの法外な報酬が明らかになったりして世論の猛反発を浴びたことで、CEOと従業員の平均給与の比率「格差倍率」も公開されるようになった。

 英国もほぼ同様で全取締役の過去2年分の報酬の一覧表を始め、過去10年間のCEOの報酬額、CEOと従業員の報酬の年ごとの変動割合も公開の対象となっている。ドイツやフランスも原則、役員ごとに報酬や長期インセンティブ報酬などが開示の対象となっている。

 開示項目が多岐にわたるだけに、公表された役員報酬の開示資料は膨大になる。ゴーンが訴追された日産自動車の有価証券報告書は、わずか1ページしか役員報酬についての記載がないが、洗剤や日用雑貨の総合メーカー、米P&Gだと50ページも割いて言及しているし、食品やヘルスケアなど欧州の総合消費財企業、ユニリーバも30ページぐらいの分量がある。

 記載の精密さの水準が、日本とはまるで違うのだ。

 膨大な開示をしている欧米諸国と比べて、日本の開示が遅々として進まなかったのは、欧米ほどケタ外れの貪欲な経営者が日本ではあまりいなかったことに加え、企業経営者の間に「懐の中を見せたくない」という後ろ向きの姿勢があるからだ。

 経団連は1億円以上の開示が導入された当時、猛烈に反発したが、「あのときはどうにもならず、その後、定着してしまった」(担当幹部)という悔しい思いがある。それだけに、さらに開示対象を拡大することには「プライバシーの問題がある。1億円を超えていない役員の報酬をどこまで開示するかは疑問」(同)と極めて消極的だ。

拡大SOUTHERNTraveler/shutterstock.com

1億円以上の報酬を受け取る理由が説明できない役員たち

 投資家代表として金融審のワーキンググループに参加したフィデリティ投信の三瓶裕喜氏は「日本では、この役員はどういう行動を取るのか、投資家サイドが想像できる仕組みになっていないところが問題です」と言う。「この人は何によって動くのか、短期の業績なのか長期なのか、小手先のことなのか、そうではないのか。米国では、報酬委員会がさまざまな指標や証拠集めて、可能な限り客観的な報酬制度にしようとします。そのうえで株価や業績の水準からみて『この人はこのくらいの水準が妥当だろう』となります。第三者がみて報酬の適正さを検証できる仕組みが必要なのです」と語る。

 企業の株を売り買いする投資家からすると、日本の企業の役員報酬制度は開示資料も素っ気なく、どのように決まっているのかが皆目分からない。業績が悪化していても役員報酬は高止まりしているかもしれないし、開示を免れたいがために1億円以下の9999万円にしているのかもしれない。

 「1億円を超えると目立つから超えたくない。何で超えるのを嫌がるかというと、なぜ1億円以上の報酬を受け取ったのか説明ができないからです。それで1億円弱で寸止めしている企業が結構多い。非常に健全ではないですね」と三瓶氏。

 それだけに今回のゴーンの事件は「業績連動報酬がどのようにして決まっているのかがまったくわからないのが問題です。欧米だったら、もっときちんと開示しないといけないのをゴーンさんは日本だから免れている」と疑問視する。そのうえで非連結のジーアなどの企業から報酬やフリンジベネフィットを受け取っている点を「株主から見たら非常に問題。他から貰っていたら『一体この人はどこを向いて働いているのか』となる」と批判する。

 大阪大の津野田一馬准教授も同意見だ。「もし米英並みの基準なら、ゴーンさんは、そもそも報酬の哲学を示し、どういう根拠でいくらをもらうのか、そのストーリーを開示しないといけない。役得的な住宅やプライベートジェット機などは米国では最近、報酬として開示されているケースもあります」

 報酬はグローバル・スタンダード並みの高水準を享受するが、開示は抜け穴だらけの日本制度の低水準を満喫する。それがゴーンのやり方だった。

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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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