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大統領のツイートに振り回される記者たち

ホワイトハウス担当のベテラン記者と歴史学者の受け止め方

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

「月は緑色のチーズでできている」と大統領がいったら……

トランプ氏とツイート画面拡大トランプ氏とツイート画面

 アメリカの学者の中には「メディアはトランプ氏のツイートを追いかけてファクトチェックをしているが、それをやればやるほど報道は『トランプ一色』になっていてトランプ政権の思うつぼだ。メディアはホワイトハウスと大統領だけを報道の対象にしているからそうなるのだ」、「いっそのことホワイトハウス担当記者会は取材をボイコットしてしまえばいい」などといってメディアの報道姿勢を攻撃する人もいる。

 だが、ハーマンは「大統領の発言を報道しないというのは僕たちにとっては職場放棄になってしまう」と反論する。「僕の立場というのはホワイトハウス担当記者の中でもとてもユニークなものだと思っています。なぜならVOAのジャーナリストとして、僕は米国の内側に向けてではなく米国以外の国の人々に向けてニュースを発信するからです。ですからこの国の中に様々な亀裂が生じているとしたら、それをきちんとそのまま報道しなければならない。極端な例ですが、もし大統領が『月は緑色のチーズでできている』と発言しても、『大統領がこういった』と報道しつつ、科学者のもとに走っていってファクトチェックもします」

「歴史の判断に任せたい」

 その上でハーマンは「トランプ支持者は『メディアは大統領に逆らってはいけないのだ』というふうに僕らのことを見ています」と話す。「国民の多くはまだ『メディア不信』のほうに固まっている。そんな中、一人ひとりのジャーナリストがそれを乗り越えていくことはもしかしたら難しいのかもしれない」という。

 「もちろん僕たちは自分の仕事を常に自己反省しなければいけないし、実際そうしているつもりです。間違いを犯したら訂正を出して、間違ったことに関しても透明性を持って読者に接しなければならない。でも、『世論がメディアをどう見るか』によって自分たちの仕事のやり方や主義主張を変えるなんてことは、僕たちはやってはいけないと思う。大統領を批判する必要があると判断した時は判断し、あとはその報道のあり方を含め歴史の判断に任せるしかないのではないか」

 トランプ氏が次の2020年の大統領選で再選される可能性はあるかと尋ねてみた。しばらく沈黙した後、深いため息をついた上で「まだだいぶ時間はありますから何が起こるかはわかりませんよ」とハーマンはいった。

 「でもね、忘れてはいけないのは『政治なんてものは腐敗し切っていて信用できない』という不信感が渦巻く中、前回の大統領選で人々の心に触れることができた候補は(民主党候補に一時なった)バーニー・サンダース候補とトランプ氏だったということ。そしてそのトランプ氏は大統領に就任したその日から再選に向けて選挙活動を始めているということです」

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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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