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「ニュース女子」問題は終わっていない

「フェイク」と「ヘイト」が結びついたテレビ番組が問いかけるもの

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

 哲学者の鶴見俊輔はかつてこう書いた。今、鶴見のことばを改めて思い起こしておきたい。

 すべて人間として生まれた者は、差別の対象とされてはならない。これは、憲法起草委員会に最年少の委員として加わった二十二歳のベアテ・シロタが書いた草案である。この草案は、日本国憲法の最終案には活(い)かされていない。この欠落は、日本の戦後史に残ったさまざまの差別を温存させ、また加速させた。(注1)

「重大な放送倫理違反があった」と認定された番組

東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)が放映した番組「ニュース女子」に抗議する市民たち=2017年6月、東京都内、撮影 ふぇみん婦人民主新聞拡大東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)が放映した番組「ニュース女子」に抗議する市民たち=2017年6月、東京都内、撮影 ふぇみん婦人民主新聞

 「フェイク」(偽)と「ヘイト」(憎悪表現)が結びつくケースは何も米国などだけで見られる現象ではない。日本でも数多くの事例が確認されているが、中でも沖縄の米軍基地反対運動を題材に地上波のテレビ局で放送された番組「ニュース女子」は多くの批判にさらされ、テレビ放送が抱える課題をいくつも露呈させる結果となった。一体、何が起き、何が問われたのか。問題点を改めて振り返り、検証してみたい。

 沖縄県東村(ひがしそん)高江の米軍ヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設に反対する人々などを取り上げた番組「ニュース女子」(2017年1月2日放送)をめぐり、東京ローカルの地上波テレビ局である東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)は、「ウソを公共の放送で流した」「沖縄で基地建設に反対する人々の名誉や信用を傷つけて偏見をあおった」と厳しい批判を受け、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会からは「重大な放送倫理違反があった」と認定された末に2018年3月、番組の放送終了を発表した。番組の司会は当時東京新聞の論説副主幹だった長谷川幸洋氏が務めていた。

 さらに、BPOの放送人権委員会は同年3月、「ニュース女子」の中で人権団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉(シン・スゴ)さんを「反対派の黒幕」と表現するなど、辛さんに対する名誉毀損(きそん)の人権侵害があったと認定した。番組放送後、辛さんのもとには脅迫メールや手紙などが相次ぎ、辛さんはドイツへの移住を余儀なくされた。

 東京メトロポリタンテレビジョンは辛さんに謝罪したが、番組を制作したDHCテレビジョンはBPOの意見を「言論弾圧」などとはねのけたため、辛さんは同年8月、番組を製作したDHCテレビジョンと司会を務めた長谷川氏を相手取り、計1100万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした(現在係争中)。他方、長谷川氏は「原告の不合理な個人攻撃によるジャーナリストとしての名誉信用毀損及び業務妨害等の被害に耐えてきたが、原告の行為はもはや許容しがたいもの」だとして2019年1月、辛さんを東京地裁に反訴した(同)。

持ち込み番組を考査しなかったテレビ局

 「ニュース女子」は、有名な歌手を起用したテレビCMなどで知られる化粧品大手ディーエイチシーのグループ会社「DHCシアター(現・DHCテレビジョン)」などが取材・制作したものだ。東京メトロポリタンテレビジョンは制作には関与せず、DHC側から完成版の納品を受けるいわゆる「持ち込み番組」だった。東京メトロポリタンテレビジョンはその番組内容を放送前に適正に考査する必要があったにもかかわらず、それを怠った。他方、制作会社のDHCテレビジョンはその後も「ニュース女子」の制作を続け、放送を継続している。

 2017年1月2日に問題の「ニュース女子」が放送された直後から、市民有志とともに訂正と謝罪を東京メトロポリタンテレビジョンに求めて抗議活動を続けてきたフリーの雑誌編集者、川名真理さん(55)は「東京メトロポリタンテレビジョンは反省とおわびの見解を発表したが、DHCテレビジョンは裁判の中で依然として自らの正しさを主張している。番組も放送を継続中だ。『ニュース女子』問題はまだ終わっていない」と訴えている。

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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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