マイカーは24時間のうち5%しか動いていない。「所有」より「使用」の時代だ。
2019年04月08日
カーシェアが日本でも急拡大している。車の所有者が運転手になるライドシェアではなく、近所の駐車場にある業者の車をネットで予約し、好きな時間だけ利用する簡便なシステムである。20、30代の若者に人気があり、自動車メーカーは「車販売の減少につながる」と警戒感を強めている。
いま自動車産業に起きている大変革はCASEと呼ばれる。Cはコネクテッド(つながる)車、Aは自動運転、Sはシェアリング、Eは電動化。自動車の販売にとっては、とりわけSのインパクトが大きい。
上のグラフは、公益法人・交通エコロジーモビリティ財団が昨年発表したデータである。カーシェアに使われる車の台数は約3万台、会員数は140万人に迫っている。年率20%を超える急成長だ。
業界最大手の「タイムズカープラス」は、元々は全国で駐車場を経営する企業である。その駐車場の一部をカーシェアのスペースに充て、全国9000か所以上に車両台数1万8000台を配置し、会員数約80万人を獲得している。
会員は、車を使いたいときはスマホなどで車種や利用時間を予約し、自分で駐車場に行ってICカードで開錠して乗る。利用料金はガソリン代、保険料込みで15分206円からで、6時間パック4020円などのプランがある。乗り終えたら車内をきれいにし、元の駐車場に戻して施錠する。
レンタカーの場合は駅前などにある営業所に出向いて店舗スタッフと対面で手続きをする面倒があるが、カーシェアはネット上で利用の手続きや支払いがすべて完了する。給油もガソリンスタンドでサインするだけだ。
米国では、2009年に生まれたウーバー(ソフトバンクが出資)やリフト(楽天が出資)のようなライドシェアが盛んだが、これらは日本では「白タク」に当たるとして原則禁止されている。その隙を突いて、ライドシェアでもレンタカーでもないカーシェアが拡大しているのだ。
カーシェアの3万台は、レンタカー事業の乗用車34万8千台の約9%に相当する。レンタカーの台数も少しずつ増えているが、カーシェアの拡大スピードはそれをはるかに上回る。
カーシェア事業は、全国に多くの駐車場を持つ事業者ほど有利になる。このため事業者の間で今、企業や個人経営の駐車場の取り合いが激しくなっている。ビジネスモデルの変革が起きているのだ。
カーシェアが急拡大する理由は何だろうか。元ポルシェ・ジャパン会長で自動車評論家の黒坂登志明氏は「一口でいえば、若者は経済的にマイカーを買う余裕がない。マイカーを買っても1日24時間のうち95%は動いていない。費用対効果の点で車が『所有』から『使用』に移行するのは自然な流れだ」と指摘する。
下の青いグラフは日本の1世帯平均所得の推移を示している。年金暮らしの高齢世帯が増えていることもあり、1995年ごろをピークに約20年間減り続け、直近は約560万円である。少数の富裕層が平均値を上げているので、実際の所得別では400万円未満の世帯数が56%を占める。
平均所得の減少と連動するように、車の国内需要(橙色のグラフ)が先細っている。新車購入には最低100万~200万円はかかる。さらに年間の維持費(ガソリン代、車検代、保険料、税金、駐車場代など)も、都市部であれば40万~50万円は必要になる。
政府の消費支出統計では、スマホなどの通信関連費用が年々増える一方、自動車関連費用は減る傾向にある。多くの世帯が車所有の負担に耐えられなくなっているのだ。
技術面からも、カーシェアに拍車がかかりそうだ。仮想通貨ビットコインなどの基礎技術として使われるブロックチェーンの応用である。
ブロックチェーンは、資産や事業を管理するのに参加者全員が記録を共有するシステムである。管理者を置かない代わり、全員がデータの履歴を監視するので、ごまかしができない。
例えば、車を友達5人で1台購入する。5人はスマホで予約して使い、空き時間は外部の人に賃貸しをする。マイカーを1人で1台買えばムダが多いが、共有すれば有効に活用できて収入にもなる。初めから投資目的で車を共同購入するケースも考えられる。
昨年5月、GM、フォード、ルノー、BMWなど欧米の自動車メーカーと、世界最大の部品メーカー・ボッシュが共同で
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