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最近、欧米の農業・食品関係のシンポジウムに行くと、AIやロボットの応用、ゲノム編集などと並んで、“ブロックチェーンとトレイサビリティ”というテーマが取り上げられるようになってきた。ブロックチェーン技術を農産物や食品のトレイサビリティ(記録保持システム)に応用することによって、農家の付加価値の向上や食の安全性の向上に資することができるのではないかというものである。
特に、この1年ほどの間に、ほとんどのシンポジウムでこのテーマが取り上げられるようになってきており、今年2月には、アメリカ農務省のフォーラムでもこのテーマが議論されている。
実は、私も2年前の2017年6月、ブロックチェーン技術の農業や食品の分野への応用可能性について経済産業研究所(RIETI)から論文を発表したことがある(“IT・AI 技術と新しい農業経営学”)。何かの文献や情報に基づき発表したというものではなく、私個人の思いつきに過ぎないものだった。
しかし、これだけ仮想通貨にブロックチェーン技術が実際に適用されるようになると、世界中の関係者が農業や食品の分野にも応用できるのではないかと気づくのも、必然の流れだったように思われる。
一方で、これだけ注目されるようになると、私自身が実際に応用する場合の問題点に気づくようになった。
本稿では、このテーマについて説明するとともに、現時点での問題点について触れることとしたい。このテーマについては多くの専門家と称する人たちが盛んに議論しているが、夢を語っているだけで、地に足がついた議論が少ないように思う。
ブロックチェーンとは?
ブロックチェーンとは日本語では「分散型台帳技術」である。「ブロック」(取引記録のまとまり)と呼ばれるデータの単位を生成し、「チェーン」(鎖)のように連結していくことによりデータを保管するデータベースのことである。取引に参加する人は誰でも参加でき、その人の前の段階の取引と後の段階の取引の記録やデータが鎖のように、つながっていく。
食品の流通はフードチェーンと言われるように、農家、加工業者、卸売業者、小売業者などの関係者が鎖のようにつながって、最終的には消費者に提供される。私は、フードチェーンという言葉から、ブロックチェーン技術の応用可能性を思いついたが、おそらく他の人達も同じような発想をしたのだろう。
ブロックチェーンには、データを改ざんしにくく安全性が高い、というメリットがある。複数のブロックが繋がっているので、どこかで改ざんが行われた場合、データが前後で不整合となるので、すぐに不正を見つけることができる。
いったん記入したデータは、ブロックチェーンに参加する人すべてが修正しないかぎり、修正できない。また、パブリックブロックチェーンであれば、外部からもリアルタイムで監視ができる。このような仕組みのためにデータの改ざんはほとんど不可能と言われている。
食品の流通については、汚染米として政府から糊用にただ同然で売却されたものを食用として高値で売却したり、賞味期限切れの食品を回収して表示を書き直して流通させたりするなどの、不正がたびたび発覚してきた。
私は、ブロックチェーンをフードチェーンに応用すれば、食品流通の不正も防止できるのではないかと考えた。