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「再生エネ批判」は印象操作だ!

再生エネのコストは2030年以降、劇的に減ることはあまり知られていない

山口智久 朝日新聞オピニオン編集長代理

「便益」と「隠れた費用」

 インタビューを始める前に、安田さんは二つの専門用語をぜひ使わせてほしいと話し出した。それは「便益」と「隠れた費用(外部コスト)」である。

 まず「便益」。これは再エネを取り入れることで、再エネ事業者が受ける経済的利益だけでなく、国民全体、あるいは地球全体が受けるメリットのことだ。

 再エネは「コストが高い」と言われるが、燃料費はゼロ、二酸化炭素や放射性廃棄物を発生させない、燃料を海外から輸入する必要がないなどさまざまな「便益」がある。安田さんは、電力市場において再エネの価格が高いか低いかだけを見るのではなく、こうした「便益」も考慮に入れるべきだという。

 「隠れた費用」とは、市場には現れないコストである。地域環境や温暖化への影響、健康被害、事故が発生した場合への対応などがある。

 2015年に経済産業省で、さまざまな電気の外部コストが試算された(長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告)。

拡大出典:資源エネルギー庁

 これによれば、原子力からの電気が最も安く、再エネは高い。これを根拠に政府は原発の再稼働を進めようとしている。さらに「再エネは高い」というイメージを広めているように思う。

 この試算について、安田さんは著書「世界の再生可能エネルギーと電力システム」で、「内訳は十分明らかにされておらず、各電源の外部コストそのものの試算や分析は報告書内には見当たりません」と指摘したうえで、「国の審議会レベルでは、中途半端でバランスの悪い議論しか行われていない」と批判する。

 試算した2015年時点では、福島原発事故による対応費用を「約12.2兆円」と想定している。その後、経産省は「22兆円」と修正したが、今年3月に発表された日本経済研究センターの試算では「35兆円~80兆円」という結果になった。廃炉作業は見通せず、最終的にいくらになるかわからない。

 そもそも原発事故がもたらした結果をお金に換算することに違和感がある。多くの人のふるさとを奪う可能性がある技術であるかどうかも「便益」に含めて考えるべきだろう。


筆者

山口智久

山口智久(やまぐち・ともひさ) 朝日新聞オピニオン編集長代理

1970年生まれ。1994年、朝日新聞社入社。科学部、経済部、文化くらし報道部で、主に環境、技術開発、社会保障を取材。2011年以降は文化くらし報道部、経済部、特別報道部、科学医療部でデスクを務めた。2016年5月から2018年10月まで人事部採用担当部長。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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