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沖縄から米国へ ジャーナリスト大矢英代のこと

初監督作品のドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」で受賞

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

米国のジャーナリズムがすべて正しいわけではない

 ただ、だからといって「米国のジャーナリズムが100%正しく、日本人が全部見習うべきだ」とは思わないと大矢は考えている。それはなぜか。

 「そもそも、米国の『市民』と日本の『市民』を形成する社会背景が根底から異なるのだと思います。米国は自由と民主主義という理念の元に国家が形成されていることもあって、よくも悪くも『自由』『民主主義』と聞くと、米国人たちの中の得体のしれない愛国心のスイッチがオンになってしまうようで、国民がそろってあっという間に戦争に転がり落ちてしまう危険性を常にはらんでいる。まさに9.11後のアメリカが顕著な例です。そしてそれにはメディアが加担をした。でも、その反省は今日に至るまでまだ十分にはなされていないと思うのです」

 大矢は強調する。

 「米国という国家の根底にある、自由と民主主義の皮の下に潜(ひそ)む暴力のメカニズムや、差別や貧困を生み出す根底にあるもの、そういう米国社会の出しきれぬ「膿」を、どこまで米国人ジャーナリストたちが見ようとしているのか、理解しているのか、私にはまだわかりません。それはジャーナリズムの世界を担っている大半が、白人男性だからかもしれません」

 「彼らにとって『戦うべき敵』は国家や政府、政治家、企業など、権力を持つ者です。もちろん、それは正しい考えです。しかし、トランプのような人間を大統領に選んだ背景には、米国社会の病みがあります。差別され、貧困に苦しむ米国市民の存在、特に白人男性たちの貧困、それを生み出す米国の『負の構造』そのものに斬り込む報道、それこそ平等や自由などという米国人が大好きな美しい言葉でデコレーションしない、『病んだ米国』を直視する報道がいよいよ必要なのだと思います」

米国の調査報道について思うこと

 「『ファクト』の重要性、徹底したファクトを追求する米国のジャーナリストたちには、大変刺激を受けています。何よりも、それを支える市民の存在には希望を抱きます」と大矢は話す。

 例えば、東京の街頭で「調査報道についてどう思うか」などとインタビューをすれば、きっと多くの人たちは「調査報道」という言葉すら知らないだろうと大矢は考える。「調査報道」の存在とその重要性が認知されているということは日本との大きな違いだという。

 そんな米国社会と米国の調査報道にも「盲点」があると大矢は考える。 ・・・ログインして読む
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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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