労働権意識が希薄な公務職場
安易な「クビ」が横行する理由として公務部門でしばしば指摘されるのは、財政難だ。それが根本の要因であることは間違いない。だが、これらの仰天の雇止め理由からは、もうひとつの問題点が浮かんでくる。それは、公務職場の「労働権」に対する鈍感さだ。
働き手は仕事を失えば生存権が侵害される。だから働き手には、待遇改善のために労組を作って労使交渉やストライキを行う「労働三権」が憲法で保障され、恣意的なクビ切りによる社会不安を避けるため、①人員整理の必要性があったかどうか、 ②解雇を避ける努力をしたかどうか、③解雇される社員を選ぶ方法は合理的か、④その手続きは妥当かといったことを判断のポイントにする「整理解雇の4要件(要素)」という判例もある。
民間でも、非正社員はこうした保護から外されがちだ。だが、そうした事態への反省から、2008年にはパート労働法が改正され、不十分とはいえフルタイムと同じ仕事のパートの均等待遇が導入された。2012年には、有期労働者が契約更新を繰り返して5年を超えれば無期雇用が認められる労働契約法の改正も行われた。実態は長期雇用なのに契約によって名目的な短期雇用を作り出し、労働条件を切り下げるという脱法行為を防ぐためだ。
働くことが生存の基礎なのは公務員も同じだ。だからこそ、公務員にも合理的な理由のない免職は原則として認められていない。労働三権を制限しても、代わりに人事院(国家公務員)、人事委員会(地方公務員)が適切な労働条件を勧告する。労働時間規制などで働き手の生活を支える労働基準法は、地方公務員でも原則として適用される。ところが公務職場では、公務は公共に奉仕する「任用」であり、対等な労働契約に基づく民間の「雇用」とは異なるとされている。それが、労働ルールへの疎さを生む。
昨年、財務事務次官や自治体首長のセクハラが相次いで問題化した。男女雇用機会均等法では、雇用主のセクハラ防止措置義務が規定されている。こうした施策を主導すべき行政機関のトップが、自らセクハラを行ってしまったという点で、公務職場での労働権への鈍感さを象徴する例といえる。
なかでも非正規については、試験に合格した正規の職員ではないという差別意識を背景に、「働き手」であることの権利は無視されがちだ。民間ではまがりなりにも導入されたパートの均等待遇や、5年を超えた有期労働者の無期雇用などの非正規の働く権利の改善について、公務の世界で置き去りにされがちだったのもそうした鈍さが背景にあるのではないだろうか。