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「メディアは中立」の常識に挑むコレスポンデント

「T」マークの「信頼」構築プロジェクトに取り組む人々も

松本一弥 朝日新聞東京本社編集局夕刊企画編集長、Journalist

「ニュースの速報競争から遠く離れて……」

「コレスポンデント」のウェブサイト画面。同社の姿勢を象徴する言葉、「Unbreaking news」(最新ではないニュース)が掲げられている=同社のウェブサイトから拡大「コレスポンデント」のウェブサイト画面。同社の姿勢を象徴する言葉、「Unbreaking news」(最新ではないニュース)が掲げられている=同社のウェブサイトから

 「ニュースの速報競争から離れて深い解説を重視します」「取材過程も公開してユーザーと共有していきます」――。

 オランダ発のメディア「コレスポンデント」(The Correspondent)は、これまでのメディアやジャーナリズムが「常識」とみなしてきたいくつかの基本姿勢に「NO」を突きつけ、新たな試みを始めている。

 オランダではすでに2013年から活動を開始している「コレスポンデント」だが、今年夏ごろにもニューヨークを拠点に米国でローンチし、英語版のニュースを発信しようとしている新媒体だ。その資金を集めるためにクラウドファンディングの手法を導入したところ、わずか30日~40日の間に4万5千人の賛同者から260万ドルを集めることができたという。

 同社のエンゲージメント・エディター、ジェシカ・ベスト(31)は「従来のジャーナリズムに飽き飽きしていた人たちにはぜひ『コレスポンデント』に参加していただき、その上でその怒りを推進力に、読者参加型の私たちと一緒に戦うことでジャーナリズムを共に変革していけたらうれしい」と話している。

「Unbreaking News」

「コレスポンデント」のエンゲージメント・エディター、ジェシカ・ベスト=photographer as:On A Hazy Morning, Amsterdam.拡大「コレスポンデント」のエンゲージメント・エディター、ジェシカ・ベスト=photographer as:On A Hazy Morning, Amsterdam.

 ジャーナリズムが「当然の前提」とみなしてきたことに真っ向から異議を唱える「コレスポンデント」を象徴するような言葉が「unbreaking news」(最新ではないニュース)だ。

 テレビ番組などの途中でキャスターやアナウンサーが「Breaking News」(「いま入ったニュースです」)と断って流れを一時中断し、センセーショナルに伝えるこれまでの報道スタイルを否定。その代わりに、物事の背景にあるものや歴史的経緯などそのニュース本来の意味に着目して深い解説を加えることで内容を充実させ、「日々押し寄せるニュースから置いてけぼりになりかけている読者を救済しよう」というチャレンジでもある。

 「これまでのニュース報道のあり方には非常に危機感を抱いています」

 そう話すベストは「従来のニュースでは『単発的なイベント』のような報道が多く、なぜそういう事態に立ち至ったのかといった歴史的背景を十分扱ってこなかった」と指摘。加えてニュース番組の背後にいるスポンサーを意識するあまり、「スポンサーにとっての有益性」を考慮してしまう帰結として「ニュースが粉飾されたり、事実以上にドラマチックに描かれたりする傾向があった」と話す。また、例えば権力を持った側の人たちの発言を右から左に伝えるような報道も目立ち、「その結果、権力者の思う通りの報道に成り下がる危険性があった」という。

 では、「コレスポンデント」は具体的にどのような報道を展開していくのか。

 「ただ単に『こういうことが起きている』という現実だけを提示するのではなく、『なぜそれが起きているのか』という部分も合わせて読者に伝え、情報に深みを持たせたい。それがポイントです」とベストはいう。「例えば『今日の天気がどうか』ということではなく、その裏にある『どうして今日のような気候になっているのか?』という大きな流れを説明すること。それとともに『なぜそうなっているのか』という点を解説することによって、『今後私たちはどのように対応していけばいいのか?』といった点も読者に考えてもらうことができるようになると思っています」

 「コレスポンデント」の方から読者に何か直接指示をするわけではないにしても、「課題や問題をめぐる将来の解決方法や、指針となるような素材を私たちが提供する、そういう形の報道も心がけたいと思っていますし、それが私たちの責任でもあると考えています」とベスト。

 そしてこう強調する。

 「これこそが、私たちがフェイクニュースに対抗するやり方だと考えているのです」

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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞東京本社編集局夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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