「メディアは中立」の常識に挑むコレスポンデント
「T」マークの「信頼」構築プロジェクトに取り組む人々も
松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist
「10の創立理念」と「公開ノートブック」

「コレスポンデント」が掲げる10の創立理念=同社のウェブサイトから
「コレスポンデント」はウェブサイトに「10の創立理念」を打ち出している。その中の5番目にはこう書かれている。
「私たちの読者は、私たちがカバーするストーリーの大半について、私たちよりもよくご存じです。あなた方がよくご存じの何かについて私たちがカバーする時は、あなた方の専門知識で貢献していただき、経験も共有していただけるよう、みなさんをお招きします」
この下りは、読者を「物事に精通している聡明なメンバー」とみなし、「ともに新しいジャーナリズムを作っていこう」という姿勢を打ち出したものということができるだろう。
この点について、ベストは「公開ノートブック」というコンセプトと、「記者が学びの過程を読者と共有する」というコンセプトがあると説明する。
「記者がこれから取材しようとする内容について、むしろ読者の方がエキスパートだということがままありますよね。例えば、子育てについての記事を書こうと思った時、子どもを現在育てている読者の方が経験が豊かでその問題の根幹部分をよくご存じだということがあります」
「そんな時は、経験豊富な読者の方からいろいろな知識や情報を記者がいただくことによって、『これから具体的にどんなふうに取材を進めていこうか』とか『どういうアプローチで取材に入ろうか』と考えることができ、記者にとってプラスになります。同時にそういう経緯を経ることで、私の言葉でいえば読者が参加する『参加型レポート』を作っていくことが可能になるというわけです。またそれを実行することによって報道の幅や深さがいっそう深まっていくということもあると思います」
その際、記者はウェブ上に記事のアイデアや取材計画などを書き込んだ「公開ノート」をオープンにし、それをもとに、ソーシャルメディアなどを通じて読者と具体的に「対話」をしながらその内容をアップデートしていくやり方を採用するという。
「透明性のある主観」

「コレスポンデント」が掲げる6番目の理念=同社のウェブサイトから
「10の創立理念」の6番目はこうだ。
「ジャーナリストは『中立的』だとか『偏見を持たない』などと装うべきではないと私たちは考えています。それとは反対に、コレスポンデントの記者たちは、自分たちのものの見方を透明にする方が、そんなものはないと言い張ることよりましだという信念に基づき、自分たちがどこから来たかを明らかにします」
「不偏不党」「公正中立」「客観報道」などの理念を掲げてこれまでメディアやジャーナリズムが行ってきた基本的な姿勢や考え方に根本的ともいえる疑問を投げかけ、新たな方向性を示そうとする試みといえるだろう。
こうした考えに基づき、「コレスポンデント」は「透明性のある主観」(Transparent Subjectivity)という新たなコンセプトも打ち出している。
一見するとわかりにくいが、ベストはこう話す。
「記者が政治的な立ち位置を明らかにするというよりもむしろ、例えば『どういう子ども時代を過ごしたか』とか、『自分の今の考え方を左右するような大きな事件として過去にどんなことがあったか』など、その記者が人として成長する過程で出会ったことや影響を受けたことなどを、包み隠さず、透明度を持って表現する。そしてそのことを通して、それを読んだ読者に『なるほど、そういう背景を持った人がこの記事を書いているのか』と納得してもらう。それが大事だと私たちは考えているのです」
「ただし」とベストは断った上で、付け加えた。「そうした『透明性のある主観』を打ち出すことよりも、もちろんまずは『事実を伝える』ことに重きを置いてはいます。そのスタンスに変わりはありません」