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進化する調査報道の最前線

「マルチなプラットフォーム」を通じて全米に発信、アニメや演劇も

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

大量のコピーの束と一緒に寝泊まりする日々

 「何しろ私は一番の若手でしたから、ひたすらコピーをとるのが仕事でした。そのものすごい量のコピーを保管しておくための棚がホテルにはあったのですが、早い話、当時の私はコピーの束と一緒に寝泊まりしていたようなものだった」

 ジャーナリズム史上に残る世界的な大スクープに入社早々かかわることができたロゼンタールだが、ニューヨーク・タイムズでは若いうちからいろいろなことを体験的に学ぶことができたという。

 「一つは、メディアというものの役割と民主主義の重要性。二つ目は、メディアは政府という大きな権力に立ち向かうのだということ。三つ目は、ジャーナリストたるもの、危険を冒してでもやらなければいけないことがあるということです。こういう仕事をやっていると、いつ何時FBI(米連邦捜査局)がドアをたたいてきて逮捕されるかもしれない。そうした危険と常に隣り合わせで仕事をしていました」

 締め切りに追われ、早朝から深夜まで張りつめた緊張感の中で文字通り命を削るような日々が続いた。「夜の10時ごろになってやっとチームの仲間と食事をする時間がとれるのですが、そのテーブルで、先輩の記者たちは私みたいな若造にいろいろ質問をしてくるのです。そんなやりとりからも私は多くを学びました。ジャーナリストにとっては年齢やキャリアの長短など問題じゃないとか、やっぱりお互いを大事にしなければいけないよとか。濃密な人間関係の中から学んでいきましたね」

「働いている一人ひとりがすごく大事」

「調査報道センター」のエグゼクティブ・ディレクター、ロバート・ロゼンタール=米国カリフォルニア州エメリービル拡大「調査報道センター」のエグゼクティブ・ディレクター、ロバート・ロゼンタール=米国カリフォルニア州エメリービル

 ロゼンタールはその後ニューヨーク・タイムズを辞め、地方紙のボストン・グローブに転職。さらにその後フィラデルフィア・インクワイアラーに移って22年間勤め、アフリカ特派員や国際報道部長を経て編集トップにまで昇進した。その過程でニューヨーク・タイムズで体得した経験が生きたという。

 「リーダーとしての仕事につくにあたり、働いているメンバー一人ひとりがみんなすごく大事なんだ、それぞれが重要な役割を持っているんだということにいつも留意しました。それをお互いに認識し合うことが、グループとしての活動を続ける上ではすごく重要なのです。私はそれをこれまでずっと実践してきたつもりです」

 だが、フィラデルフィア・インクワイアラー在籍中にインターネット時代が到来。同社はその新しい波にうまく乗れず、人員削減を繰り返すようになったため、ロゼンタールは幹部への不満がたまり、2001年には自分が解雇されるという憂き目も味わった。その後はサンフランシスコ・クロニクルで編集局長を務め、2008年にCIRの事務局長に就任した。

 「当時はスポンサーがいるようなひもつきのメディア企業で働くことにもう辟易(へきえき)していて、もっと何か新しい経営形態のもとで調査報道をうまく展開できないかと考えるようになっていました」とロゼンタール。

 「インターネットが壊したものは何かを改めて考えてみると、要は報道する側のニュースルームにいる人間と経営者の間の微妙なバランスでした。ニュースルームの中にいる人々はとにかくいいニュースを提供したい、そのためにはリスクを冒してでも頑張りたいと考える。一方の経営者側は、きちんと収入を確保して利益を出したいと考える。この二つの人々の考えがまったくかみ合わなくなってしまったのです」

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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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