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進化する調査報道の最前線

「マルチなプラットフォーム」を通じて全米に発信、アニメや演劇も

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

文字や映像だけでなくアニメや劇でも表現する

米国のNPOメディア「調査報道センター」の内部。ラジオ番組を作成したり、映像や演劇、アニメを作るための打ち合わせをしたりと「マルチなプラットフォーム」を使って多面展開している=米国カリフォルニア州エメリービル拡大米国のNPOメディア「調査報道センター」の内部。ラジオ番組を作成したり、映像や演劇、アニメを作るための打ち合わせをしたりと「マルチなプラットフォーム」を使って多面展開している=米国カリフォルニア州エメリービル

 ロゼンタールが新天地のCIRで実現しようと考えた「新しいジャーナリズムのモデル」。それを説明する際、ロゼンタールは「車輪をイメージしてほしい」という。

 「車輪の真ん中には『ストーリー』があります。その真ん中からタイヤを支えるスポーク(棒)が何本も出ていますよね。昔はこのスポークの一本が『文字媒体』で、もう一本が『映像』でした。でも新しい時代にはスポークをもっとたくさん増やしてトータルに多角的に伝えていきたい。テクノロジーが進化すればするほどスポークの数をどんどん増やしていきたいんです」

 調査報道に長年取り組んできたジャーナリストにしては、調査報道をめぐる固定的な考えや枠組みを自由に取り払って新たな道を模索するという点において、ロゼンタールの考えは極めて柔軟だ。

 「例えば、ニュースを受け取る対象が子どもだったとしたらどうでしょうか。そのストーリーの内容をアニメで表現してみようとか、あるいはストーリーを使って劇を上演してみようとか。ニュースの様々な受け手にとって一番理解しやすい形の媒体にストーリーを乗せて発信していく。そんなことにチャレンジしてみたかったのです」

 既成のメディアではできなかった挑戦に胸が高鳴ったが、その一方でこんな思いも味わった。

 「私はそれまで大所帯の名の知れたメディア企業を渡り歩いてきましたが、CIRに移った当初、自分以外にはわずか6人のスタッフしかいませんでした。『事件が起きたぞ』と意気込んで立ち上がってあたりを見渡しても、人がいない。そこで『うーん、何もすることがないな』と思わず脱力して座わりこんでしまう、そんな感じでCIRでの日々は始まりました」

リーマンショックのさなか、資金集めは大変だった

 ロゼンタールがCIRに移った2008年当時はリーマンショックのさなかで、ものすごい不況が米国を襲い、資金集めにも非常に苦労したという。はたして調査報道をめぐる「新たなビジネスモデル」はどうしたら構築できるのか。難問を前に、ロゼンタールは考えた。

 「まずはしっかりとした土壌を築かなければいけない。そしてその土台の上に『社会的正義を追求するのがジャーナリズムだ』という柱をしっかり立てなければならないと思いました。ふつうのビジネスだったら『いくら投資してくれれば見返りはいくらになります』ということになるのですが、私たちの場合は何しろ非営利のジャーナリズム団体です。社会の腐敗や問題を白日のもとにさらけ出して、その帰結として『世の中が少しはよくなりました』ということを見ていただく必要がある」

 同時に、CIRに投資してくれる人たちの期待に応えるためには「これまでジャーナリズムがやってこなかったこと」にも果敢にチャレンジする必要があったという。

 「過去に誰も手をつけていない分野にもどんどん積極的に挑戦していって結果を出すということが必要でした。その一環として、ファクトを子どもたちに伝えるために劇をしたり、映画やアニメをつくったりもしたのです」

 ロゼンタールの挑戦は劇を上演しただけでは終わらなかった。 ・・・ログインして読む
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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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